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お迎え2

なんとか村をぐるりとして、家に帰り夕食の席についた。

家族団らんって経験ないし、ちょっと緊張してしまう。
それにこの場合、彼女のご両親を何て呼ぶべき?
おとうさん、おかあさん?
いや、馴れ馴れしすぎるのかな。
おじ様、おば様、おじさん、おばさん?
彼女のおとうさんは目を覚ましていてドキドキだ。

「お味噌汁名前さんのと同じ味ですね。」

すると、おかあさんはクスリと笑った。
おとうさんはというと、眉間に皺を寄せている。

「名前おまえ、家にこの男を上げているのか?」

あぁ、失言だった!
動揺する僕とは裏腹に彼女は深いため息をついた。

「ヤマトさんに失礼な物言いはやめてくれる?ちょっと窓の立て付けが悪くて修理してもらったの。そのお礼に料理を御馳走しただけ。」

おとうさんは更に攻め込んでくる。

「家に男をあげたのには変わりないだろう。おまえ、里でどんな生活送っているんだ。」
「お父さん、ヤマトさんもいる前でよして下さい。」
「おまえは口を挟むな。」

オロオロする僕とは違って名前さんはズズッと味噌汁を啜ってから口を開いた。

「はいはい、お父さんにやましいことなんて何もないんだから変な想像はよしてよね。それにこの5年間、男の人を家にあげたのだってヤマトさんだけよ。」

そうなんだ。嬉しいかも。

「君、ヤマト君といったな。」

わわわわ!僕に話を振られた!
思わず背筋が伸びる。

「はっ、はい!」
「君が引き止めたんじゃないのか?娘が里に残るように。」

すると、間髪入れずに彼女とおかあさんは言った。

「お父さん何度も言ってるでしょ?私が決めたんだって。それにヤマトさんは距離なんて気にする人じゃないから引き止めたりなんてしないよ。」
「お父さんもういい加減にして下さい。ヤマトさん、気にしないでね。この人名前にかまって欲しくて、ちょっかいかけてるだけだから。」
「そうそう、本当は私の事応援してくれてるんでしょ。やり方が子供なんだから。これ毎日やってるやり取りだから、ヤマトさん本当に気にしないで下さいね。」

おとうさんを見るとなんだかバツが悪そうな顔をして小さくなっている。
ちょっと可愛い。

並べられた料理の中にクルミとほうれん草の胡麻和えもあった。

「これ、凄く好きなんです。」
「それね、名前が帰ってきてからよく作るのよ。ヤマトさんに出したら好評だったからって言って。」

ふふ、と笑うおかあさん。

「お母さん、そんな話やめてよ。」
「名前ったら私にヤマトさんの話ばっかりするのよ。だから、凄くお会いしたかったの。迎えに来てもらってありがとうね。」
「いえ、僕も名前さんのご両親にご挨拶したいと思っていたのでそう言って頂けてよかったです。」

名前さんをチラリと見ると耳が赤い。
そんな彼女を見ておとうさんは拗ねたように口を尖らせていた。

「なんで父さんには話してくれなかったんだ。」
「…だって、なんて言えばいいかよくわからなかったんだもの。」
「でも、母さんには言ってたんだろう。あんまりじゃないか。」
「………御馳走さま。私、お風呂洗ってきます。」

食器を流しに持っていき彼女は逃げるように風呂場へと駆け込んでいった。
そんな彼女を見て、おかあさんと顔を見合わせ笑った。

ーー

お風呂も頂いて、一人縁側でくつろいでいた。
彼女は僕と入れ替わって今、お風呂だ。
田舎っていいな。風に揺れる木々の音が心地よい。
すると、おとうさんが酒を持ってやってきた。

「ヤマト君、一杯どうかね。」
「いただきます。」

僕にコップを渡し焼酎を注いでくれた。
そして、おとうさんはぶっきらぼうに口を開いた。

「さっきはすまなかったな。君のことを悪く思っているわけじゃないんだがな。いや、あれだ…娘とのコミュニケーションが下手でな。どうにも嫌なことばかり言って気を引こうとしてしまう。私の悪いところだとはわかっているんだが…。」

やっぱりなんだか可愛いとこがある人だな。

「好きな子ほどいじめたくなるっていいますしね。」
「まぁ、そういうことだ。」

恥ずかしそうにおとうさんは頭を掻いている。

「名前は木の葉の里ではどうだ?私に似て少し頑固なところがあるし迷惑をかけてるんじゃないか?」

確かにちょっと頑固というか決めたことは曲げずに突っ走る行動力があるな、とは思う。

「僕は一緒に働く機会はないですが、里ではとても頼りにされていますよ。知識が深くて機転がきいて仕事の大小に関わらずなんでもする人だってみんな言ってます。」
「そうか。よかった。」

おとうさんはホッと息を吐いた。

「予想だにしない行動に驚く時もありますが、それは相手のことを思っての行動で凄く胸を撃たれます。」

いきなり僕の腕を手当したりね。

「名前はどこにいても名前だな。家内から聞いたが交際を初めたのは最近らしいな。」
「はい。」

まだ、たったの三ヶ月だ。

「私は君がどういう人間か知らない。でも名前が選んだのだからまぁ大丈夫だろう、と思っている。親馬鹿だと思ってくれたらいいが、うちの娘は人を見る目は持っていると思う。」

カラリと、氷をならして焼酎を一口飲み、おとうさんはさらに続けた。

「あの子の決めたことを応援してやるつもりだが、やっぱり心配でな。まだ付き合って日が浅い君にこんなことを言うのもどうかと思うんだが、娘が辛い思いをしている時は側にいてやって欲しい。」

そして、頭を僕に下げた。

「おとうさん、頭を上げてください!」
「いや、本当にお願いしたいんだ。」

これが名前さんの強さの秘訣だったんだろうな。思ってくれる人。

「僕でよければ、名前さんの力にならせてもらいます。」

おとうさんは頭を上げて僕の目を見た。念をおすみたいに。

「それに、僕が名前さんがいないと駄目なんです。名前さんと一緒にいると心が暖かくなって力が湧いてくるんです。」

そう、僕が彼女を必要としているのだ。
すると、おとうさんは破顔して言った。

「君はいいヤツだな。やっぱり名前は見る目があった。」

おとうさんは彼女と一緒で僕を照れさせるのが上手い。やっぱり親子だ。

ーー

お風呂から上がってビックリした。
お父さんとヤマトさんが一緒にお酒を飲んで盛り上がっていたのだ。

「何の話してるんですか?」
「男だけの秘密の話ですよ。ね、おとうさん。」
「そうだ。今は父さんがヤマト君を独り占めしてるんだからオマエはあっちで母さんと茶でも飲んでればいい。」

なにそれ?私邪魔者?
まぁでも自分の親と彼が仲良くしているのは凄く嬉しいことで、いいのだけれど。

「はいはい。でも、お父さん、明日は朝早いんだから、ほどほどでヤマトさんを開放してあげてね。」

わかっとる!て、返事はきたけど怪しいもんだ。迷惑じゃないかとヤマトさんをみたらニコニコ顔だった。
本当に私がお邪魔虫かも…。

ーー

次の日、早くに朝ごはんを食べて両親と4人で家を出た。見送ってくれるみたい。
次帰れるのはいつだろう。
朝ごはんを食べている時、お母さんもお父さんもちょっと口数が少なかった。淋しいんだろうな。

村の出口まで行くと、村のみんなが見送りに来てくれていて驚いた。
身体に気をつけなさいよ、とか、名前のことよろしく頼むね、とか、みんな口々に言ってくれて嬉しい。

お母さんはちょっと泣いてた。
「名前あなたのやるべきことをしっかりやりなさいね。お母さん応援してるから。」
お父さんも涙ぐんでいた。
「また二人で帰ってきなさい。」

ヤマトさんを見ると、優しく微笑んでくれた。
きっとこの人はまた無理して一緒に帰ってくれるつもりだろうな、と思ったけど、彼がそうしたくてそうするのだって気持ちが伝わってくる。

「うん。じゃぁ行くね。また、帰るからね。」

みんなに背を向けて私は一度も振り向かずに足を進めた。だって帰りたくなくなっちゃう。
私は私の決断に責任がある。木の葉で頑張るのだ。

ーー

「みんなとても暖かい人達ですね。」
「そうでしょ。みんなが家族なの。昨日の冷やかしには、まいっちゃったけど。」

すると彼はクスクスと笑った。

「僕は楽しかったですよ。」
「それは、私の反応を見て楽しんでたんでしょう?」
「それもあります。」

酷いや。
そして、ヤマトさんは優しく目を弓形にした。

「名前さんのご両親は素敵な方ですね。僕、大好きになっちゃいました。」
「それはよかったです。」
「父と母もヤマトさんのこと凄く好きになったみたいでした。きっともう息子みたいに思ってますよ。」
「それは光栄だな。早くまた会いたい。」

二人、目を合わせて笑った。
まさか彼が迎えに来てくれるなんて思ってなかったし、やっぱり申し訳ない。
だけど、こんな幸せな気持ちにさせてくれるなんて本当に感謝だ。