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テンゾウさん?ヤマトさん?

※隊長の呼びかたはテンゾウじゃなきゃ嫌という方は閲覧をお控え下さい。


前から思ってたんですけど、と前置きしてから彼女は僕に聞いた。

「カカシさんってヤマトさんのこと、テンゾウって呼びますよね。前から思ってたんですけど、なんでですか?」
「あぁ、うーん、なんて言ったらいいかな。以前所属していた部署でのコードネームがテンゾウだったんだよ。先輩とはその時に出会ったからさ。数年前に移動になってからは綱手さまに新しくヤマトって呼び名をもらったんだけどね。先輩はそのまま呼び方をかえてくれないんだ。」
「え?つまり…ヤマトさんがヤマトさんになったのって結構最近ってことなんですか?」

名前はよほど驚いたのか、目がきょとんとしていた。
生まれてから死ぬまで一つの呼び名で一生を遂げるのが普通だ。
一般人の彼女からすると、コードネームって概念事態が不思議なものだろう。

「まぁ、そうだね。僕の今までの人生ではテンゾウの期間の方がずっと長いね。」
「じゃあ、テンゾウさんって呼んだほうがいいですか?きっとヤマトさんよりテンゾウさんの方がしっくりきますよね。」
「いや、ヤマトの方がいいな。」

僕は悩むことなく答えた。

「そうなんですか?」
「うん。ヤマトになってからの方がいい出会いがたくさんあったからね。」


穏やかな表情を見せる彼に私は暖かな気持ちになった。
あぁ、きっとナルト君たちのことだな。
ヤマトさんはナルト君とサクラちゃん、サイ君をなんだかんだ言いつつ凄く可愛がっているもの。

「それじゃあ、そのままヤマトさんって呼びますね。」

すると彼は私の発言を受け、少しの間なにか考えてから口を開いた。

「君ははっきり言わないと気付かないからあえて口に出すけど、名前にも会えたしねって意味だよ。」

驚いた。
あら、私も含まれていたのか。
うん、そうか。
うん、これは嬉しいな。

自分の顔が今、どうしようもなくにやけていくのがわかる。
このへらへらした笑みが止められない。
そして、唇からは大好きな目の前の人の名がついつい零れていた。

「ヤマトさん。」
「はい。」

「ヤマトさん。」
「はい。」

「ふふ、ヤマトさん。」
「はい。」

嬉しくなって、何度も読んでしまう。
私のなんの意味も持たない呼びかけに応えることに、ヤマトさんも幸せを感じているみたい。
だって彼の目尻はどんどん垂れ下がっていくんだもの。
けれど、この繰り返される暖かなやり取りは彼によって中断された。

「僕としてはヤマトかテンゾウかを迷うんじゃなくてさ、そろそろヤマトさんからヤマトにするかを迷って欲しいところだね。」

ああ、なるほど。
そうくるのね。

付き合い出してそこそこ経つ。
彼は交際しだしてすぐに名前って呼び変えた。
だけど私はなんだかタイミングを逃し続けているのだ。
今更呼び捨てにするなんて、私としては気恥ずかしい。
でも、このままじゃきっとずっと“さん”は取れない。
ここは勇気を出して言うべきなのかもしれない。
ただ5文字が3文字になる。
それだけのことなのに、なんでこんなに照れている自分がいるのだろう。

「…ヤマト」

ドキドキしながら頑張って小さく声に出してみた。
すると彼は待ってました、と言わんばかりに嬉し気に口角を上げたのだ。
えええ、今そんなに素敵な笑みを向けるのやめてもらえませんか。
なんかそんなにあからさまに喜ばれると更に気恥ずかしさが増してしまうじゃないの。

思わず彼から視線を泳がした意気地なしの私は心の中で呟いた。
やっぱり、やーめた

「さん。」

と、付け加えると、途端に肩を落とすヤマトさん。
そんなに呼んで欲しいんだ。

「まっいいけどさ。」

なんて言いながら不貞腐れている貴方が愛おしくてたまらなくなる。
好きだから、凄く好きだからこそ呼ぶのが恥ずかしいのだ。
こんなこと伝えたら彼はきっと喜び過ぎるから言わないけどね。

いつか、とっておきのときに呼ぶよ。
たぶん。

おしまい