3時のキスがまだですよ?
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夢。
いや、正確には夢じゃない。
この感覚には覚えがあるというか、何故かナルトに生まれ変わってしまってこの方ずっと付き合いのある気配に目が覚めた。
しかしそこは自分の住むあの狭いアパートではなく何もない場所に牢屋だけあるというなんとも殺風景な場所だ。
―――その殺風景な場所の牢屋の中から此方を睨む赤い眼と視線がぶつかり、私は目を白黒とさせた。
【3時のキスがまだですよ?】
「…あれ?何か怒ってる?」
「・・・・・・」
視線の主は何故だか拗ねたような目をしてこちらを睨んでいた。
正直、そんな顔をされても可愛いだけなのだが、とりあえず機嫌を直して貰わないと後々面倒だ。
そう思い私は此方を睨んでいる彼、里を襲った化け狐こと九喇嘛に再度声をかけた。
「クーラーマーちーん。何怒ってんのぉ?」
「・・・・・・」
うひゃ。黙秘ですかそうですか。
それならこっちにだって考えがある。
私はきっと今、凄い良い悪人面をしていることだろう。
けど、悪いのは黙り込んだまま理由を言わない九喇嘛ちん。
ならば説得(物理)を行使するしかあるめぇよ。
「九喇嘛ぁ?あたしに逆らおうとかさぁ、…あと500年は早いわ」
「…!!!は、狭間やめっ」
「やめませーん」
ドゴォッという音と共に封印を弛め九喇嘛の牢屋に踏み入る。
危険を察知して暴れる彼を問答無用で拳を用いて床に沈めた。
―――…
「…で、何拗ねてたんさ九喇嘛」
「・・・・・」
「よっし、さっきのじゃ足りなかったみたいだね何遠慮なんてしなくていいってばよ所詮あたしは人間様だからクラマちんからしたらちっぽけな存在だろうしあたしの拳くらい痛くも痒くもnry」
「悪かった。話をしよう狭間。だからその握りしめた拳を引け狭間」
笑顔で説得(物理)を実行しようと拳を握った私に、九喇嘛ちんは素直に謝った。
そして言い難そうに一度こちらに視線を寄越し、少し間を置いたのに漸く口を開いた。
「……あの、イルカとかいう男。あやつに、…化け狐、と言っただろう」
「うん。言った」
「・・・・・・」
あっるぇ?黙るし。あ、もしかして。
渋い顔をして黙り込む九喇嘛に私は思い当たる節があり、にやぁと女子としてあるまじき悪人面で九喇嘛を覗き込みながら言葉を紡いだ。
「何々クラマちーん。もしかして、それで拗ねてんのぉ?やだなぁ。あたしが本音ではそんなことミジンコ程にも思ってないの知ってるっしょ?だってクラマちんはあたしの可愛い可愛い相棒さまだよ?」
「……解ってはいる。だが、やはりお前の口からは聞きたくはなかった」
「あらあらー」
どうやらこの可愛らしい同居人は私がイルカてんてーに言った言葉に傷付いていたようだ。
どうしたもんかと苦笑しつつ、さっき殴った頭を撫でながら私は九喇嘛に弁解するために口を開く。
「だってあの場で九喇嘛の事知ってるのを勘付かれたら色々面倒くさいからさぁ。知らないフリするには里に伝わってる伝説?っていうか、あれに乗っかって返すしかないじゃん?」
「もっと他に言いようがあっただろう」
「えー。『可愛い可愛い九喇嘛ちゃんのこと悪く言わせるような話題振んな禿げろ』ってイルカてんてーに言えばよかった?」
「…飛躍し過ぎだ。そこまでは言ってないだろう」
「うぉぉいっ…ナニソレ私にどうしろって言うの九喇嘛ちゃんよぉ…」
私が下手に出ているのをいいことに無理難題突きつけてくる九喇嘛に思わず呆れた声が出てしまった。
「よし。よしわかったよ。極力呼び方には気を付けるから。それで許してください」
「…今宵、夜が明けるまで傍に居ると言うなら、許さないこともない」
「何この我が儘お姫様可愛いか!可愛いから許すけど!!」
姫はお前だろう?と不思議そうに首を傾げる九喇嘛の頭を全力でもふもふと撫で回してやり、私は九喇嘛の傍で夜を明かすのだった…。
3時のキスがまだですよ?
(もう可愛いんだからこのもふもふがっ!)
((可愛いのはお前だろう…。誰にも渡さんからな))