海底の宝物庫 | ナノ
迷子  [ 13/19 ]


【迷子】



確か泰明に連れられて武士団とやらがある屋敷に向かう途中、人の波に流されて…それで………俺、もしかして迷子……?


「さ…最悪だ……や、泰明に怒られる…っつか呆れられるって…」


俺は思わずその場で頭を抱えてしゃがみこんだ。

無理もないと思って欲しい。

だってこの世界に来てまだ数日。更に言えば此処は異世界平安京。
いくら実家と大学が京都とはいえ、所詮は1000年以上先の世界。

地形は一緒だったとして全て一緒ではないのであまり知識はアテにならない。
…つまりは絶体絶命(いや、冗談抜きで)


「おうぅ…道分かんねぇのに動くと余計に迷子になるって誰かエライ人が言ってた気がするし……いやしかしこの年になって迷子だなんて…」


何て情けないの俺…


俺はガックリと項垂れながら今からどう家に帰るかを考える。
自分の勘で歩き回れば確実に更に迷うのは確実。

しかしだからと言って人に聞くにしても…………柄の悪そうな方々ばかりで。


「………う〜ん。いやはや、困った」

「おい、そこのお前」

「しかしなぁ…泰明も泰明で俺を置いて行った訳だし…俺だけがお説教されるのもどうなんだよって感じだし?呆れられるのはちょっとムカつくっていうか?」

「…?おい、聞こえいないのか?」


葵はあまりに自分の思考に浸りすぎ、声をかけてくる男に全く気付くかず。

そんな葵を不審者と思ったのか、男は怪訝に思いながらも今一度、葵に聞こえるように少し声を張り、声をかけながら方に手を置いた。


「おい、お前」

「はっ、はぃぃぃぃっ?!」


なっ、なん、なっ…何?!


思考に浸っていた俺は肩に置かれた手にプチパニックになりながら後ろを返り見る。
するとそこには。


「…………うわぁ。こりゃまた美形さんで…」


俺は声をかけてきた青年に思わず見惚た。
しかしそんなことは知らない青年は、訝しげに俺に話しかけてくる。


「このような場所で、何をしている」

「へ?!あ…いやその…知り合いと武士団なる場所に向かう途中で、その…はぐれまして…その………迷子、です」


自らの状況を思い出し、俺はガックリと項垂れた。
そんな俺を見て、青年は小首を傾げながら口を開く。


「武士団に用事か?」

「あ、はい。そうです」

「そうか。ならば私もこれから武士団に向かうところだから、付いてくるといい」


…………へ?


青年の提案に俺は思わず目を見開き、慌てて口を開く。


「い、いいんですか?」

「?私から提案したんだ、当たり前だろう。それに、どうせ向かう先は同じだからな」


やったぁぁっ!これぞまさしく天の助け!!


「あ、ありがとうございます!」

「いや。…そろそろ行くぞ?」


そう言うと青年は歩き出し、俺ははぐれないように青年についていくのだった……




――――……



「ここが武士団だ」

「あ…ありがとうございます!」


暫く歩いた場所で青年が立ち止まりそう言った。
そんな青年に、葵は嬉しそうに礼を言う。


「それで、武士団の誰に用事…」

「葵。何処へ行っていた」


青年の言葉を遮り現れたのは、不機嫌そうに眉を寄せ腕組みをしている泰明。…かなりご立腹に見えるのは俺の気のせいじゃないはずだ。


「あ…はは…こ、これはこれは泰明殿。ご機嫌麗し…くはないですよね……」

「当たり前だ。勝手にうろちょろするなとあれほど言ったはずだが?」

「泰明殿のお知り合いですか?」


俺たちが知り合いであることに驚いたように青年が口を挟む。
それに頷きながら泰明は青年に向かって口を開いた。


「あぁ。…頼久。これが世話をかけたようだな」

「いえ、私は何も。…もしやその方が、件の?」

「そうだ」


俺を見ながら問う青年に、泰明も俺に視線を寄越す。
二つの視線にさらされながら、俺は首を傾げた。


え?俺ってば軽く蚊帳の外ちっくなんですけど?ていうか?え?何でこっち見てんの?


「葵。何を惚けている」

「え?あ…ごめ…」

「お前に剣術を指導する、源頼久だ」

「…はぃ?」


謝罪を遮られた上にいきなり言われた言葉に、俺は思わず目を点にする。
そんな俺に、先程の青年が挨拶する。


「先程は知らぬとは言え無礼を働きました、羅刹の神子殿。源頼久と申します。本日より貴方様の剣術の指導をさせていただきます」


跪きながら言う青年――源頼久と言うらしい――に、俺は慌てた。


「そっ、そんな。迷子になった俺が悪いんだし、頼久さんには感謝してますよ!それに今日から剣術の指導して貰うのは俺の我が儘な訳ですし!だからそんな畏まらないでください」

「神子殿…」


俺の言葉に、頼久さんは微笑み立ち上がる。


「では葵。終わる頃に迎えを寄越す」

「え〜…泰明が迎えに来るんじゃないの?」

「私はそんなに暇ではない」

「………左様で」


きっぱりと言う泰明に、俺は諦めたように肩を落とした。
そんな俺を気にも留めず、泰明は早々に立ち去ってしまった。

残されたのは俺と頼久さん。

俺は頭を掻きながら苦笑を浮かべ、口を開いた。


「はぁ…それじゃあ、えっと、これからよろしくお願いします。頼久さん」

「はい、神子殿」

「その神子殿ってのやめませんか?気軽に葵でいいですよ」

「滅相もございません」


俺からの提案に、しかし頼久さんは首を横に振った。
そんな頼久さんの提案に俺は頬を掻きながら言葉を続ける。


「じゃあ、俺も頼久って呼ぶからさ。これから多分長い付き合いになるだろうし、気軽にいこうよ。ね?」

「神子殿……。…分かりました。では、葵殿とお呼びすることに致します」


妥協案を提示しても、敬語と【殿】付けな頼久に、俺は更に困ってしまった。


…ま、いっか。


先程も言ったが恐らく付き合いは長くなるのだ。

追々、対等な立場になっていければいい。


当面の目標に強くなること、そして頼久と仲良くなることを決意し、俺は頼久に手を差し出した。


「じゃあ、これからよろしくね、頼久」

「はい、葵殿」


こうして、後に親友となる俺たち二人は出会ったのだった・・・・






迷子

(ところで雅殿。この手は一体…?)
(…あれ?この時代って握手の習慣無いんだっけ?)

  
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