海底の宝物庫 | ナノ
羅刹の神子  [ 12/19 ]


【羅刹の神子】


「お待ちしておりました神子殿。私は泰明の師をしております安倍晴明と申します」

「・・・・・・・・・・は、え、えぇぇええ?!」

「騒がしいぞ葵。師匠に無礼だ」

「いや!だってさ泰明さん?!」


今この人凄いこと言ったよな?!言ったよね?!
いやもう、色々突っ込みたいこと山ほどあるけどとりあえず。


「た、多分人違いじゃないっすかね・・・?ほら、俺ってば何の変哲もない普通の大学生だし!」

「だい・・・?」


現在俺、元宮 葵は、糺の森から泰明の師匠の家に来ていたりします。

泰明の師匠であり、俺達の世界でもか〜なり有名な歴史人物である、安倍 晴明さんに遭遇してテンション上がる様な下がる様な妙な感覚に襲われつつ、俺は晴明さんに言われた言葉を即座に否定した。

そして首を傾げられた。

素っ頓狂な声を上げたため隣にいらっしゃる泰明さんの顔が怖いけどそこは敢えて見ないふりに徹する。だって超怖い。
そんな俺の内心を知ってか知らずか、晴明さんが少し微笑みながら言葉を続けた。


「突然このようなことを言われましても、貴殿が混乱するのも無理もありませんな」

「いやぁ…もう、面白いくらいに何が何だか…つか何ですか?神子って」


史学を勉強してる俺も「神子」という存在自体は認識しているが、しかしそれが自分に当てはまるものではないこともわかっている。

そもそも何に仕える神子すらも分からず不信感が顔全面に出てしまった。
いくら此処が(恐らく)平安京で、自分が何らかの形でタイムスリップしてしまったのだろうとは思いつつ、ドッキリではないかというのも正直捨てられない。

そんな俺に少し気が付いたのか、晴明さんが苦笑を浮かべながら口を開いた。


「神子殿が不審に思われますのも無理はございません。貴殿はこの場所とは異なる時空からいらっしゃったようですし、僭越ながら私めが説明させていただきましょう。よろしいですかな?」

「はい。てか、むしろよろしくお願いいたします」


勉強しているとはいえ、この場所、時代に疎い俺は晴明さんの願ってもない申し出に頭を下げた。
そんな俺に一つ頷き晴明さんは説明を始める。


「まず、この世界についてでございますが、この都は通称・平安京と呼ばれ、四神と龍神の加護を受けた都でございます」


あぁ、やはりそうか。


俺は俺の考えが確定し納得し頷いた。
やはりここは俺が考えていた場所に近いところになるらしい。
近い、というのは先ほど晴明さんの言った【異なる時空】という言葉に引っ掛かりを覚えたからだ。
もしかしたらここは俺の知る平安時代に似て非なる場所なのかもしれない。


「そして先ほどより私が貴殿をお呼びする際に呼ばせて頂いている【神子殿】という呼び名でございますが、正確には【羅刹の神子】という位置に貴殿が当てはまります」

「羅刹の神子?」


聞いたことの無い名称に、混乱する頭を落ち着けながら俺は晴明さんに聞く。


「羅刹の神子というのは、この平安京の守り神であり、鬼神である羅刹の力をその身に宿した者の事をいうのです。この世界に禍が降りかかる度に異世界よりその姿を現し、龍神の神子と共にこの世界を救ってきた者達を、羅刹の神子と誰かが名付けたのでしょうな。…ですが、龍神の神子ほど、詳しい記述は残ってないのです」

「なるほど…。その話でいくと、俺は龍神の神子とやらと一緒にこの都を救えばいいんですね?」

「そういうことになりますな」


羅刹の神子…羅刹と言えば、鬼神から守護神となった毘沙門天の眷族の神。

その神子に、俺がなった。
一般人の俺が、だ。

…何か理由があるのだろうが、正直迷惑というか困った話だ、が。


「…何らかの危機に陥ってるこの都を救えば、元の世界にも帰れる可能性もあるってことですよね?」

「はい。龍神の神子と羅刹の神子はお役目を果たしたのち、天へと帰っていったと記述に残されております」

「…なら、やらないわけにはいきませんよ。俺に何ができるかはわかりませんけどね」


俺が笑ってそう言うと、晴明さんは微笑したあと泰明に向かって命令するみたいに言った。


「泰明。神子殿を空いている部屋へご案内しなさい」

「…はい」

「それから神子殿」

「はい?」


泰明にそう言ったあと、晴明さんが俺を呼んだので首を傾げて応えた。


「不便な事や分からないがあれば、泰明に申し付けてください」

「はい。わかりました」

「では、私はこれで」


それだけ言うと、晴明さんは部屋から出ていった。

残されたのは泰明と俺の二人。

何となく沈黙の続く中、俺は天井を見上げてしみじみ言った。


「…俺、本当に平安京にいるんだな。…あかねの奴、心配してるだろうなぁ…」

「…あかね?」

出てきた俺の妹の名前に、泰明が首を傾げた。
そんな泰明に笑い、俺の妹だと教えてやる。
それを聞いた泰明はやはり無表情で何を考えているかわからない顔のまま、静かに聞いてきた。


「・・・帰りたいか、葵」

「そりゃあ、帰りたいさ。両親と妹に心配かけたくないしな」

「………」

「けど、さ…」


黙って聞いている泰明に笑顔を作りながら俺は言う。


「お役目、俺に何が出来るかわからないけど、ちゃんと果たすよ。俺が選ばれたのにも、きっと理由があるはずだから」


それに、結果的にそれが元の世界に帰る道に繋がるみたいだしね。


俺がそう言うと、泰明はほんの少し目を見張りながらぽつりと呟いた。


「…前向きだな」

「それが取り柄だからな」


にっと笑いながら、俺は言う
そして思いついたことを俺は泰明に言った。


「泰明。良ければ俺に陰陽術と剣術を教えてくれないか?」

「…何だいきなり」

「俺は龍神の神子を助ける羅刹の神子なんだろ?なら、何か身に付けてた方が守りやすいしさ」


そう言った俺に、泰明は少し考えた後提案するように言った。


「陰陽術は教えてやる。…だが剣術は源氏か平氏の者が適任だろう」

「源氏か平氏ってことは武士?」

「あぁ。知り合いに源氏の者がいる。その者にお前に稽古を付けて貰えないか話しておこう。お師匠には伝えておく。今日はもう休め。部屋に案内しよう」


そう言って泰明は立ち上がる。
それにならい俺も部屋を後にし、泰明ついていく。

しばらく歩いて案内された部屋に俺を通し、泰明は去って行った。
何とも淡白な泰明に関心しつつ通された部屋に横になり、俺は漸く肩の力を抜いた。


「…羅刹の神子…か…」


俺は用意されていた茵に横になりながらぼーっと、今日あった色々な事について考えていた。


これから羅刹の神子として何をさせられるかは別として、やはり気になるのは妹の事。真っ直ぐで優しい妹の事だ。きっと今頃心配しているだろう。


「あかねのやつ…どうしてるかな…」


今は時空の遥か彼方にいる妹に、俺は想いを馳せながら。

俺のこれからの運命を大きく左右した一日は、刹那の如く過ぎ去って行ったのだった……。






羅刹の神子

(まぁ、あかねなら大丈夫だよな。うん。)

  
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