目指しているもの、つまり、夢が違うのは人間ならば当たり前の事だ。
私に譲れないものがあるように、彼にも、荘くんにもまた譲れないものはある。
おば様とおば様に恩を返す事。
それが彼の、生きる唯一の理由で、私との婚約に固執する理由。
「……あんなにも……愛されてるのに、」
荘くんは養子だ。おじ様とおば様の実子ではない。
その事実を知ったのは、忘れもしない五年前の夏。
荘くんっておじ様にもおば様にも似てないね、と何気なく放った私のその一言がおそらく荘くんにとっての地雷だった。
青々と茂る芝生を眺めながら、ぽつりと彼は呟いたのだ。
他人だからね、と。
思えば、その時からだ。
彼に対しての接し方が分からなくなったのは。
婚約の話は元より在った。
正式なものではなく、ただただ大人達の戯れ言が大きく膨れてしまっただけのものだったけれど。
幼いながらも意味をそれなりに理解出来ていた私は、それに頷いたのだ。
荘くんのお嫁さんになるよ、と。
始まりはただのお茶会。
いつも世間話しかしないお茶会。
私と荘くんは絵本を読みながらジュースを飲んでてお菓子を食べてくすくす笑い合うだけ。
それを見ていたおば様が言ったのだ。
二人とも本当に仲良しね、恋人同士みたいだわ、と。
分かりやすい引き金だ。
お嫁さんになるよ、なんて私が言ってしまったから。そうなったらすごく嬉しいよ、なんておじ様達が言ってしまったものだから。
荘くんはそれを叶えなければという、強迫観念に駆られている。
おじ様達の望みを叶える事が、彼の全て。
そんな事をしなくてもおじ様達は荘くんの事を心から愛している。だからもっと自由に生きていい。好きでもない私と結婚する必要はない。私にも夢があるから、と。
訴え続けたこの五年間、一度として彼にそれが届いた事はない。
「…………やだな……隈……出来てる」
眠れず迎えた朝、鏡の前で小さくため息をついた。
小鳥の囀ずりに痛むこめかみ (……今日は、誰にも会いたくない)