パタン、とドアが閉ざされた。
途端、紛い物の微笑みはべろりと剥がれ落ちる。
「どういうつもりだ」
「……え?」
「俺以外の男と密室で二人きり。しかも、抱き合ってた」
普段の荘くんの声も割と低めだけど、今は一段と低い。
「……だから、さっきも言ったよ?転びそうになったのをた」
「助けてもらった、だろ。分かった。それはいいとしよう。なら二人きりだったのはどうしてだ」
「……それは、」
「それは?」
春樹さんがくしゃみをしたから、シャワーを貸した。
ありのままに告げれば怒られはするのだろうけれど、最終的に荘くんはきっと許してくれる。
なのに何故か、この時は春樹さんとの時間の事を素直に言う気になれなかった。
「……まさかとは思うが、言えないような事をしてたわけじゃない、よな?」
「……」
「……彗那」
「……」
「彗那!」
言えないような事って、何?
そんな事、してないよ。
「…………い、でしょ、」
「……何、」
「……関係ない、でしょ、」
仮に、していた、としてもきっとキミはそれに関してはどうも思わないでしょ?
「せ」
「っ荘くんには関係ない!噂されなきゃいいんでしょ!分かってるから!」
ぐ、と下唇を噛んだ後、一気に声を吐き出した。
溜まりに溜まったそれを、ごぽりと。
「彗那、そうい」
「そういう事でしょ。荘くん、いつも言ってるよね……彗那は世間知らずで夢ばかり見てるから、って」
「……せ」
「恋愛したいなんて言ったら誤解されるから言うなって…………私は荘くんの婚約者。それ以外の何者でもない。荘くんが気にしてるの世間体!周囲の目!分かってるよそんなの!」
は、と短く息継ぎをして。
未だ二の腕を掴むその手をぱしりと払い落とす。
「もう寝るから、帰って」
「っ、おい、まだ、」
視線を足元に落としたまま、荘くんのお腹をぐいぐい押してドアの方へと後退りさせた。
まだ話は終わってない。
そう言いながらも無言で押し続ける私が面倒になったのか、彼の足は着実にドアへと近付く。
「荘くん」
そして、ドアの向こう側へと彼の身体が出た瞬間、私は顔を上げた。
「出来ない約束はしない方がいいよ」
おやすみ、荘くん。
そう言って、私は静かにドアを閉じた。
薄っぺらい二人 (だって私は、単なる道具)