06

 
パタン、とドアが閉ざされた。

途端、紛い物の微笑みはべろりと剥がれ落ちる。


「どういうつもりだ」

「……え?」

「俺以外の男と密室で二人きり。しかも、抱き合ってた」


普段の荘くんの声も割と低めだけど、今は一段と低い。


「……だから、さっきも言ったよ?転びそうになったのをた」

「助けてもらった、だろ。分かった。それはいいとしよう。なら二人きりだったのはどうしてだ」

「……それは、」

「それは?」


春樹さんがくしゃみをしたから、シャワーを貸した。

ありのままに告げれば怒られはするのだろうけれど、最終的に荘くんはきっと許してくれる。

なのに何故か、この時は春樹さんとの時間の事を素直に言う気になれなかった。


「……まさかとは思うが、言えないような事をしてたわけじゃない、よな?」

「……」

「……彗那」

「……」

「彗那!」


言えないような事って、何?

そんな事、してないよ。


「…………い、でしょ、」

「……何、」

「……関係ない、でしょ、」


仮に、していた、としてもきっとキミはそれに関してはどうも思わないでしょ?


「せ」

「っ荘くんには関係ない!噂されなきゃいいんでしょ!分かってるから!」


ぐ、と下唇を噛んだ後、一気に声を吐き出した。

溜まりに溜まったそれを、ごぽりと。


「彗那、そうい」

「そういう事でしょ。荘くん、いつも言ってるよね……彗那は世間知らずで夢ばかり見てるから、って」

「……せ」

「恋愛したいなんて言ったら誤解されるから言うなって…………私は荘くんの婚約者。それ以外の何者でもない。荘くんが気にしてるの世間体!周囲の目!分かってるよそんなの!」


は、と短く息継ぎをして。

未だ二の腕を掴むその手をぱしりと払い落とす。


「もう寝るから、帰って」

「っ、おい、まだ、」


視線を足元に落としたまま、荘くんのお腹をぐいぐい押してドアの方へと後退りさせた。


まだ話は終わってない。

そう言いながらも無言で押し続ける私が面倒になったのか、彼の足は着実にドアへと近付く。


「荘くん」


そして、ドアの向こう側へと彼の身体が出た瞬間、私は顔を上げた。


「出来ない約束はしない方がいいよ」


おやすみ、荘くん。

そう言って、私は静かにドアを閉じた。


薄っぺらい二人
 (だって私は、単なる道具)
 
||

 
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -