バスタオルと適当な着替えを持って、自室内のシャワールームに向かう。
ぽすり。それらを分かりやすいところに置いて、置いておきますね、と声を掛ければ、すみません、と返された。
「……謝ってばかりだわ、」
バスルームを出て、ソファーへと向かいながら首を傾げる。
くしゃみをしたから大丈夫ですか?と訪ねれば、すみません。
シャワー貸しますよと申し出れば、大丈夫です。すみません。
駄目です。風邪を引いてしまいます。そのままでは帰せませんと粘れば、お言葉に甘えます。すみません。
事ある毎に謝罪を述べる彼のそれは、何に対してのものなのだろうか?
シャワーの順番だって、私の方が先だった。
黙って帰らないというから私が先にシャワーをさせてもらったけれど、シャワー室は他にもあるのだし、よくよく考えれば同時にシャワーをする事だって出来た。
それに気付かず、拭いたとはいえ数分間濡れて体温が下がった状態のまま部屋に居させた私の方こそ謝るべきなのでは?
「……あの、」
「っ」
「あ……すみません、驚かす、つもりは、」
「い、いえ、ごめんなさい。少しぼんやりしていて、」
なんて事を考えていれば、気配もなく背後に立っていた春樹さん。
びくりと肩を揺らしてしまえばこれまた、すみません、だ。
「……シャワー、ありがとうございました。あの、」
「髪、まだ濡れてますね」
「え」
彼は何も悪くないのに不思議。と少し視線を上げれば、ぽたりと毛先から滴る雫。
せっかくシャワーで温まっても髪が濡れたままではやはり風邪を引いてしまう。
春樹さんの肩にかかっていたタオルを取り、少しだけ背伸びをした。
「っちょ、あ、あの、お嬢様!?」
「駄目ですよ。きちんと拭かなくては」
「だっ、え、あ、」
わしゃわしゃ、わしゃわしゃ。
無遠慮にタオルで髪を撫で回せばがしりと両手を掴まれ、ち、近いです。とか細い声が鼓膜を抜ける。
近い?とそれに反応して動きを止め、上げていた視線を徐々に降ろしていけば、文字通り目と鼻の先には春樹さんのお顔。
「……っ、し、失礼……しました、」
しっとりと湿り気を帯びた前髪の隙間から覗く焦げ茶色の瞳は真っ直ぐに私を見ていて、何故だか気恥ずかしさを覚えた。
頬へと熱が集まっていくの分かる。どうしようもなく顔が熱い。
静止された手を降ろしながら、つつつ、とさりげなく後退った。
「あ、危な」
「っ」
それが裏目に出るなんて、勿論私は思ってもみなかった。
「い……すよ」
ガツッ!と踵に何かがぶつかって、ぐらりと後ろへ傾く身体。
咄嗟に春樹さんが腕を引いてくれたから、背中からのダイブは避けられたものの。
「……っ、」
今度は近いなんてものじゃなく。
ぴたりと密接して、彼の腕の中におさまってしまった。
濡れた髪、混ざる体温 (……先程より、近い気がします)