ふぅ、と小さく息を吐き。
ふ、と力を抜けばゆっくりと身体は後ろへと倒れる。
「……必死だなぁ……荘くん、」
ぽす、と柔らかく身体を包み込むベッドは勿論、返事などしてはくれない。
ホコリひとつない真っ白な天井を見つめながら、今日の事を思い返す。
思えば、昨日の時点で荘くんの様子は変だった。
今までオペラ観賞とか二人で出掛ける事もそれなりの頻度であったけれど、デートだなんてはっきりと口語されたのは初めてだったし、手を繋いだのだって初めてだ。
私のしたい事を一緒にしたり、私の行きたい場所に連れて行ってくれる、なんていうのも考えてみればこれもまた初めての事。
「……あと、三百六十三日」
きっと、焦っているのだろう。
彼の十八歳の誕生日まで、私達の婚約が結婚に変わるまで、もう一年もないというのに懲りずに私がまだ夢を語ったりなんてしたものだから。
おじ様とおば様の望みを叶える為に、二人に喜んでもらう為に。
ただ、それだけの為に彼はプライドを捨てたのだ。
最早それは、執念と呼ぶに相応しい。
「……どうす……っ!」
無論それは、私にも言える事だけれども。
なんて自嘲染みた笑みが浮かびかけた瞬間、コンコン、とガラスを軽く叩いたような音が聞こえてびくりと肩が揺れた。
「はる、き……さん?」
身体を起こして音が聞こえたそこへ視線を向けると、へらりと笑う春樹さん。
何事かと慌てて駆け寄り、カラリとガラスを開ければ、こんばんはー、とにこやかに挨拶される。
「すみません、こんな時間に、」
「い、いえ、」
「どうしてもこれ、渡しておきたかったんで」
かと思えば、す、と差し出された白い紙箱。
ありがとうございます、と一見してケーキの入っていそうなその箱を受け取ると春樹さんはまたへらりと笑った。
「……良かった……受け取ってもらえないかもって思ってたんで……ホッとしました」
「……え」
「それ、最近オープンしたばっかの店のジェラートなんすけど……その、そういうの食べないかも、って……買ったあとに思って、」
笑っているその顔に少しだけ混ざる、焦燥。
垣間見えた矛盾に、ふふ、と思わず声がもれた。
「ここのジェラート食べてみたいな、って思ってました、私」
「……え、マジ、っすか、」
「ええ。マジです。なので、どうですか?」
「……え」
「一緒に食べませんか?」
頂いたばかりのものを、ご一緒に、なんてオカシな話かもしれない。
「……や、でも、その、」
「決まりです。食べましょう」
「……っ」
でも、誘わずにはいられなくて。
「珈琲と紅茶、どちらがいいですか?」
逃がさない、と言わんばかりに。
そろりと伸ばした手で、ぎゅ、と春樹さんの右手を握った。
就寝前のジェラートをキミと (あ、ワインやシャンパンもありますよ?)