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「ねぇ、荘くん」

「ん?」

「もう、手は離してもいいと思うのだけど」

「駄目だよ。彗那はすぐ迷子になるから」


ぎゅ、と少し強めに握られた手。

隣を歩く荘くんはにこりと笑って、私の提案をやんわりと却下した。


「大丈夫だよ。私もう子供じゃな」

「パンフレットによるとこの先にパンダが居るみたいだ。赤ちゃん見れるといいな、彗那」

「……あ、うん」


何がどうしてこうなったのか。

なんて、そんなものは初めから分かりきっている。


まだまだ暑さの残る九月下旬。

どこに行くの?という問いに、内緒、と微笑まれて連れて来られたのはパンダの赤ちゃんが産まれたと話題になっている動物園。

その話をした時に、閉じ込められた動物を見て何が面白いんだ?と言っていた荘くんがここに足を運ぶ理由なんてひとつしかない。


「……彗那、楽しい?」

「……うん、楽しい、よ、」


荘くんの誕生日に癇癪(かんしゃく)を起こして怒鳴り散らした私の機嫌を取る為、だ。


「それは良かった。次は何を見に行く?」


戯れるパンダの親子。

観賞時間は五分にも満たず終了。

わぁ!と私のテンションが上がったのはたったの二秒。


「……んー……もう、いい、かな」

「……」

「……ほら、荘くん、動物苦手でしょ?」


嫌でも感じる温度差に、へらり、苦笑。

外出するのは嫌いじゃない。寧ろ好きな方だけれど、今は息が詰まる。


「でも彗那は好きだろ……?動物」

「……好きだけど、」

「……けど、何」

「…………その、え、と、」


会話を交わす時は微笑んでくれているけど、パンダの親子を見ている時にチラリと盗み見た荘くんはすごく冷たい目をしていた。

それは憐れむというよりも、蔑みを存分に含んでいて間違っても愛(め)でているとは言えない代物。

小さい時から荘くんは動物が苦手だったからそうなるのも無理ない。

それを頭では理解出来ているのだけれど、こうも温度差があるとやはり心から楽しむ事は出来なくて家が恋しくなる。

きっと、どの動物を見に行っても彼の表情は無か私に対しての偽笑だけだ。

荘くんなりに気を遣ってくれているのだろうけれど、それならそれで、動物達への苦手意識を完璧に隠してくれないと私だって気を遣う。


嫌々されるデートなんて、つまらない。

端的に言えば、時間の無駄。

勿論そんな事を言えるわけもないからただ私は黙って俯いて、何て言えば荘くんの気分を害さずに帰れるだろう?なんて事ばかり考えてしまう。


「……分かった、」

「…………え?」

「帰りたいんだな、彗那は」


そうして結局、懸念していた荘くんの機嫌を損ねるという結果を招いてしまった。


機嫌取りの義務化デート
 (帰りたいのは、私だけじゃないでしょう?)
 
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