あんたって、本当に、
思考と繋がっているようで、まるっきり違う方向に容赦なく働く感情というものは酷く厄介なものだなと改めて痛感した。
「……っ……ん、」
簡単に言ってくれるな、と。
視線を上げ、口を開こうとすればそんな言葉など言わせないとばかりに降った噛み付くような荒いキス。
やめろ!と叫びたくとも、考えもなしに唇を動かしたが最後、僅かなその隙間から侵入したぬるりとした感触に思考は停止する。
くらりと眩暈にも似たそれを覚えて、その行為を確かに拒絶したいはずなのに脳からの指令は一向に届かない。
「……涙華」
「……や……っ、」
くしゃりとかき掬うように後頭部を押さえる大きな手に、自ずと寄る眉根。
角度を変えて再び重ねられた唇に、何故だかまぶたが閉じた。
「る、か……っ、」
おそらくそれを、受け入れた、とこの男は解釈したのだろう。
先程より艷を含んだ吐息に余裕のなさが垣間見える声色で紡いだ私の名前を寄り添わせ、玄関よりも中へと私の身体ごと押し進める。
キスをしながら押されるがままに後退ったせいで、備え付けの下駄箱にぶつけてしまった背中が地味に痛い。
なんて、それを思うが先か、ドアの閉まる音に続いて聞こえたのは施錠の音。
「……っしゅ、ん……っ……た、」
「っ」
腰元に添えられていた手がするりと上服の裾を持ち上げて、それはそれは自然な流れで中へと入る。
迷いのないそれに慌てて声を出せば、その手は胸に触れる寸前で動きを止めた。
「……わ、悪い、」
「……」
「……違う……こんな、つもりじゃ、」
我に返った、という表現が正しいかどうかは分からない。
離された事で視界内に収まった彼の顔は焦燥に染まっていたけれど、ゆらりと揺れたその瞳はあからさまに欲を孕んでいたからだ。
「……涙華……悪かった、」
「……本当に、そう、思ってる……?」
「…………いや、キスした事自体は、思ってねぇ」
「……あんたって、本当に、」
辛うじて謝罪といえる言葉を吐いているあたり、無意識の確信犯、とでも言うべきだろうか。
「けど、強引にしたのは、悪かったと思ってる」
本当にこの男は、たちが悪い。
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