答えてよ
意地でも見栄でも何でもなかった。
ただいつも通りに、気を遣われたくないからいいよ、と断っただけだ。
しかしこうなってしまうと、今日くらいは気を遣ってもらえば良かったかもしれない。
「怖がらせてごめんなぁ嬢ちゃん。大人しぃしとってくれたらなぁんもせぇへんからな?」
なんて思ったところで、後悔先に立たず。
危ないので送りますという槌谷くんの申し出を断るのはいつもの事で、公園でじゃあまたねと解散してからおそらく五分も経っていないだろう。
なのに、私は今、顔面凶器といっても過言ではないくらいの強面(こわもて)なオッサン二人に挟まれる形で、外からは中が見えない仕様になっている車の後部座席に座らされている。
中からも外はそこそこ見えにくいちゃあ見えにくいのだけれど、問題はそこじゃない。
「……あの、」
「ああ気にしぃない。俺らはただ雇われてるだけや。指示された事以外する気はないで」
「……」
「ま。緊急時は例外やけどなぁ」
にやり、と効果音の付きそうなその笑い方にどれくらいの破壊力があるか一度鏡で見た方がいいよ、と思わず出そうになったそれをごくりと飲み込む。
自身の両隣に二人、運転席に一人、助手席に一人。全員、男。
村を出たばかりだというのに初期装備のまま単独で魔物の群れに挑むような自殺行為をしても許されるのは勇者だけだ。
こんなエンカウント、私は望んでない。
しかし、そんな半ば現実逃避めいた事を脳内で繰り広げている間に車はしれっと動き出してしまい、完全に私は詰んだ。
リアル詰みゲー。
ああ笑えない。
二十歳も過ぎて、二十代も後半に差し掛かって、こんな歳になって誘拐されるだなんて誰が思うだろうか。
唯一、透明度を保っているフロントガラス越しに流れ行く景色をぼんやりと見ながら、どうか殺されませんように、と一心不乱に願った。
「着いたで、嬢ちゃん」
どれくらいの時間を、願い続けていただろうか。
降りるで、と先に降りた右隣の強面なオッサンに引きずられる形で車から降りれば、左隣のオッサンは勿論の事、運転席と助手席の二人も降りて男四人が私の周りを囲む。
クソッタレ。
心の中でそう吐き捨て、表面上の沈黙を保ちながら歩き始めた男達のあとを追う、というよりも囲まれているから動かざるを得ない。
進行方向にはそびえ立つ高層マンション。
見ずとも予想はついていたけれど、外観に負けず劣らず、内装もまた金に物を言わせていてヘドが出そうだ。
うええ、とこれまた心の中で吐き捨てて、無言で足を動かしていれば、いつの間にかエントランスを通り抜けてエレベーターに乗っていたらしい。
じわりと忍び寄る浮遊感。
苦手なわけではないけれど、状況が状況なだけに眉根が寄るのは不可避。
何で私がこんな目に。
そう思った瞬間、止まったエレベーター。
訓練された兵隊のように、右に二人、左に二人と捌(は)ける男達。
エレベーターは静かに開き、右斜め前にいた強面なオッサンがその方向に向かって頭を下げた。
「お連れしました」
開けた視界に写るのは、エレベーターの向こう側。
「……どういう……事、」
「……」
「答えて」
「……」
「答えてよ。隼汰」
そこには、私の携帯に不在着信を残した彼が居た。
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