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心理学というモノに精通しているわけじゃない。

それでも拒絶という文字を掲げれば、たいていの人は自らも避けようとするものだ。


「霧嶋」

「……」

「霧嶋!」

「っえ、あ、は、はい」

「俺らの班、休憩」

「あ、ごめんなさい」


だが、あの男といえば。

なんて事をバイト中に悶々と考えていたせいで、同じくバイトではあるが同じ班で共に働いている彼の言葉を軽く無視して苛立たせてしまった。


「ごめんはいいから早くしてくんねぇ?」

「はい」


ああ、失敗。

このバイトを始めてからもうすぐ二年になるけれど、ここでも私は遠巻きにされている。

違う班の人達は勿論、同じ班の、特に今話しかけてきた彼には遠巻きというよりも嫌悪感を剥き出しにされている。

班をまとめるリーダーという役割のせいで休憩や終業の度に私に話しかけなくちゃいけないから、余計に嫌なのだろう。

私にとって、それは心地好い事ではあるのだけれど。

それが行き過ぎてしまうと、クビにして欲しい、などと上に掛け合われ兼ねないから嫌われるのもほどほどにしておかなくてはならない。


「マジでトロいお前」

「……ごめんなさい。気を付けます」

「ごめんなさいで済む話ならわざわざ言わねぇし」

「……すみません」

「だから、そういう……あー……もういいや。うぜぇ」

「……」

「……つうかお前ん家、すげぇ金持ちなんだろ。お嬢様のお前が何でこんな工場でバイトなんか」

「…………すみません」

「……」

「……」

「……本当……お前見てるとイライラするわ」


今の私にとってここは、数少ない居場所の一つだから。


労働=逃
(卒業したら、辞めますから)

 
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