6
私が住んでいる家はお金持ちの部類だと思う。
他者から見れば、お金持ちの家に住んでいる私はお嬢様というモノに当てはまるのだろう。
だけどそれは私が稼いだお金ではない。
私はただ養ってもらっているだけで、断じてお嬢様ではないのだ。
「霧嶋」
「……」
「おい。起きてるか?」
「あ、はい。すみません……何でしょうか」
なんて事を考えながら自動販売機の側面にもたれ掛かるように座っていたせいか、またしても呼ばれる声に気付けず。
そのせいでまたしても彼の機嫌が少しだけ悪くなった気がした。
「……あのさ、」
「はい」
「さっき、ごめんな。その、八つ当たりみたいなのして」
「……」
「いや、お前がトロいのとかイライラすんのとかは本当に思ってるけど……その、」
このバイトも、もうすぐ二年になる。
けれどこれまでに彼からプライベートな事で話し掛けられた事は一切なかった。
さっきのようにキツイ言葉を吐かれたり、劣悪な態度を取られたりするのはそう珍しい事でもない。
寧ろ、日常だ。
夏休みや冬休みなどを除けば、基本的には彼を始めとする班の人達には週に二回のペースで顔を合わせているが朝から顔を見るなり舌打ちをされる事も珍しくはなかった。
「…………てか……さ、と、隣……座っても?」
「……え……あ、はい」
なのに、今さらどうして。
「あのさ、」
「はい」
「いっつも、休憩室に居ねぇのって……やっぱ……俺のせいか……?」
「…………え?」
「居ねぇじゃん……お前」
なんて、考えてもおそらく答えはない。
班をまとめるリーダー、岸本 風羽(きしもと ふう)。
名前が珍しくてすぐに覚えてしまった彼は良くも悪くも感情の赴くままに言葉を吐き、行動に移すタイプの人間だ。
おおかた、上の人間に何か言われたのだろう。
休憩室以外で休憩をさせるな、とか何とか。
「……いえ、一人が好きなので」
「え」
「岸本さんのせいではないです。決して」
「……そ……か、なら、いいんだけど」
次回からは気を付けます、と付け加えれば。
いつもしかめっ面の彼がほんの少しだけ笑ったように見えた。
休憩室=地獄
(騒がしいのは苦手だけど、仕方ない)