19
今までの自分、すなわち、過去の自分がどういうモノだったか。
仮にそれが記憶から薄れかけていたとしても、消えてなくなる事はない。
「あ、居た居た。能面女」
「本当だ。ルミー!能面女ここに居たよー!」
ザクッ、ザクッ、と土を掘り返す音に混じって聞こえたその声は、どこか懐かしさを感じるそれを紡いでいた。
「……何でこんな校舎裏に……て、ううわ。土まみれとか……能面女にはお似合いだけど……汚っ」
手を止めて。
その声の方へと視線を向ければ、派手な風貌の女子が三人そこに。
「言えてる。こんな花壇、誰も気にしてないっつうのにさぁ」
「本当それ。陽太も何でこんな女なんかと付き合ってんだろうねー?ルミの方が絶対いいのに」
彼女達は私の友人ではない。
私に友人というモノは存在しない。
しかし彼女達の、特にルミと呼ばれたそのコには見覚えがある。
「ねぇ、能面ちゃん」
「……」
「いつになったら陽太と別れるの?」
「……」
「あんたが別れてくんないとさぁ、私が陽太と付き合えないじゃん?」
「……」
「ほら、陽太は優しいからあんたをフれないの。だからあんたから消えなきゃじゃない?それぐらいの空気は読めるわよね?」
それはきっと、風貌のせいだけではない。
クスクス、クスクス、と小馬鹿にした笑い声が重なって空気を伝った。
調子に乗んなよブス、だとか。
キモいんだよ能面、だとか。
そんな言葉もそこに混じって確かに聞こえた。
「まぁ、一ヶ月くらいなら、って私は思ってたんだけど……もう二ヶ月だし?さすがに陽太の優しさに甘え過ぎじゃないかなぁって思うんだよねぇ」
彼女達は、おそらく、だけど阿佐ヶ谷くんの友人だ。
複数人で一緒にいるところを何度か見かけた事がある。
しかし、ルミという彼女はどうやら阿佐ヶ谷くんに好意を抱いているようで、残念ながらそれには気付かなかった。
実際のところ、私は阿佐ヶ谷くんとは付き合っていない。
単なる振りだ。
だから、それを端的に伝えてこの話を終わらせようかとも考えたのだが。
どこから話がもれるか分からないから、とあの日交わした約束が頭に浮かんで、それはすぐさま選択肢から排除された。
「……ごめんなさい……まだ別れるつもりは……」
仮に阿佐ヶ谷くんも彼女に好意を抱いていて、だけど乗り掛かった船だからと私との関係を続けているのならば事は簡単だけれど。
どちらにせよ、独断で返答をするわけにもいかないから。
「あ、そ」
「……え」
と、少し目線を下げた瞬間。
どういうわけか、彼女は私が持っていた移植ごてを奪い。
「じゃあ、優し過ぎる陽太でも絶対別れたくなるくらい今よりもっと汚い女にしてあげるよ」
何で、取った?
と、一度は下げた視線を上げれば、これまたどういうわけか、彼女は私から奪ったそれを高々と振り上げた。
嫉妬=凶器
(…………っ)