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本当にこれでいいのだろうか、と。
罪悪感というよりも、それは迷いに近かった。
「奏(かなで)」
「……あさが……よ、陽太くん」
「いつになったらすんなり呼んでんれんの、名前。もう二ヶ月経つのにさぁ」
「…………こういうの……慣れなくて」
無理強いされているわけではない。
決断したのは他でもない自分自身だ。
「阿佐ヶ谷より陽太のが言いやすいっしょ?俺も霧嶋さんて呼ぶより奏の方が呼びやすいしさ」
「……いえ。阿佐ヶ谷くんのほ」
「てかさ、奏。今日なんで一緒に帰れないの?明日から冬休みって知ってて言ってる?」
付き合っている振りをする事。
振りである事を知っているのをお互いだけにする事。
名字ではなく名前で呼び合う事。
その他、諸々。
およそ二ヶ月前のあの日、そうする事で一つでも問題が片付くのならと頷いた事を一日に一度は思い返してしまう。
「……ごめんなさい。私、美化委員だから、花壇の世話が」
「……あー……そういえばそうだったな……一番めんどくさい委員だから押し付けられてたんだっけ」
「……いえ……押し付けられたわけでは」
「あーもう……そうやって文句言わないから押し付けられんだよ」
「……ごめんなさい」
さも付き合っているかのように振る舞っているけれど、プライベートでは全くと言っていいほど関わりはない。
無論、彼から誘われはするけど全て断っている。
「……や、俺こそごめん。明日からしばらく会えないから……言い過ぎた」
私は、忘れてはいけないのだ。
「いえ」
「じゃあ……俺はもう帰るな」
「はい」
「気が向いたら、連絡……して」
「……」
「……あ……やっぱ……俺がする。クリスマスとか、初詣とかあるし」
「……」
「……」
「……」
「じゃ、じゃあな」
「……はい。さようなら」
私、という人間を。
順応=大敵
(今在るモノは全て、卒業するまでのモノ)