15
一つの終わりが見えたとしてもそれを喜んではいけない。
「あの、岸本さん」
「あ?何だよ早くしろよ」
「いえあの、本当に私、もう帰りますから……お風呂と着替えありがとうございました。着替えは洗ってかえ」
「馬鹿かお前。髪濡れたままだと風邪引くだろうが。何の為に風呂入ったんだよ」
所詮、終わりというのは始まりにしか過ぎないのだから。
「……そう、なんですけど……さすがに……ドライヤーは……」
「いいから早く座れ。お前が濡れたの俺のせいだし最後までさせろ」
「……」
「ほれ。早く」
上半身のみとはいえ、顔も髪もずぶ濡れで。
やはりその点に関しては責任を感じたのか、自宅が近くだからとお風呂と着替えを提供してくれた岸本さんなのだが。
どういうわけか、髪を乾かしてやる、とまで言い出した。
無論、私とて髪は乾かしたい。
真夏ならまだしも、今はもう十月の半ば。
陽も完全に落ちてしまったこの時間帯に風呂上がりのまま外をウロウロするほどの馬鹿ではない。
しかし、だ。
「あの、それなら自分でします。自分で出来ますから」
「ダメだ。俺がする」
男らしさ全開な座り方でカウチソファーに座り。
収まれと言わんばかりに開けたその脚の間を指差しながらドライヤーを握る彼を前に躊躇なく頷けるほど私の脳みそはおめでたくない。
とはいえ、押し問答を延々と続ける気力も私は持ち合わせていない。
「……そういうの……嫌なので……やっぱり帰りますね。お気持ちだけ頂きます」
熱が出なければいいのだけれど、と。
風邪は引くだろうけど、咳だけとか、くしゃみだけとかで済ませたいなぁ。
なんて思いながらぺこりと頭を下げた。
「……うぜ」
「……え」
「もういい。やめた。素でいく」
瞬間。
下げたその頭を掴まれた。
責任感=口火
(……酢……?)