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不変を望み、それに執着する私は端から見れば頭もオカシイ女なのだろう。
瞬く間のモノもあれば、長い年月を費やすモノある。
増えるモノもあれば、減るモノもある。
「っ霧嶋さん」
「……おはよう。阿佐ヶ谷くん。体調はもういいの?」
「あ、おはよう。大丈夫。ってか、馬鹿みたいに元気……その、寧ろその事に……昨日の事について聞きたいんだけど」
頭では分かっているんだ、不変のないこの世こそが不変なのだと。
それが、世の理だという事を。
「……昨日?」
「き、昨日、俺……寝ぼけてると思ってたんだ……夢だろう、って」
「……」
「目開けたら……目の前に霧嶋さんが居て……でもそんな、俺ん家に居るわけないから、だから、絶対夢なんだって思って、」
「……」
「それで俺……夢なら……って、思って……でも、朝起きたら霧嶋さんが書いてくれてたメモがあって夢じゃなかったって知って……その、」
きっと、その時点で気付かぬ内に私は不変から外れてしまっていたのだろう。
いくら鍵がかかっていなかったからといって、部屋に上がり込んだ昨日の私は"らしく"ない。
そしてもっと"らしく"ないのは、その後だ。
「……手を握ってて、とか……頭撫でて、とか……寝るまで側に居て、って言った事をキミは謝ろうとしてるの?」
「っ、や、だっ、その、ごめん……本当……キモいよな……俺」
「……ううん」
「……え」
「病気の時って、どんな人でも心細くなるでしょう?だから普通だと思うよ……私は」
一睡もしないで、考えた。
どうして、手を握ったのだろうか、と。
どうして、頭を撫でたのだろうか、と。
どうして、彼が寝るまで帰らなかったのだろうか、と。
だってそんなの、本当に"らしく"ない。
「……霧嶋さんて……正直だよな」
「……」
「そこでさ、これでもかっていうくらい罵られたらさすがに俺も自粛するのに」
彼にあれもこれもと求められても嫌悪しなかった事も。
彼に応えた事で彼が笑ってくれたのを嬉しく感じた事も。
そしてそれらを、睡眠という三大欲求の一つを蔑ろにしてまで考えた事も。
「……今度からそうする」
「はは。今度から、って事は次も期待していいって事?」
「……今の発言は取り消すわ」
「残念。取り消せないから、期待しとくよ」
"らしく"ない、なんて言葉じゃ片付けられないくらいに、"らしく"ない。
風邪=万病
(きっと、キミの風邪が移ったんだ)