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There is no genius that bests hard work.
(訳:努力に勝る才能 または 天才なし)
という諺(ことわざ)があるように、努力すればいずれ何らかの形で報われるはずだと私は思っている。
そう、例えどんなモノであろうと努力は裏切らない。
「………………嘘でしょう……?」
そう信じて生きてきたけれど。
今日というこの日ばかりは、そうもいかないようだ。
真横を歩きながらずっと一人で喋り続けている岸本さんに耐え、心にもないありがとうを述べさせられたというのに。
目的地に間違いないであろうそこのインターフォンを押しても反応がない。
二回、三回、四回、と間を置きつつ押してみたが結果は同じ。
シーン、という効果音が今の状況には残酷なほどよく似合う。
もういい。
結局、留守だなんて時間の無駄だった。
彼の帰宅を待つ気力はないし、プリントを置いて帰ろう。
はぁ、とため息を吐き出しながら、一度は躊躇ったはずの郵便受けへと四ツ折にしたプリントをすとんと落とす。
くるりと踵を返して、数分前に自分が歩いてきたところをたどるように歩き出した。
「……………………いち……おう、確かめよう……かな」
なのに、何故だろう。
ぽわんと頭に浮かんだ最悪な図。
きっと、病院だ。
そうに違いない。
と、思っているのに脳内の阿佐ヶ谷くんはバタリと倒れている。
力尽きて、もうダメだ……的なセリフ添えられる程度には瀕死だ。
万が一にも、それはないと思うのだけれど。
現実的に見て、やはりないと思うのだけれど。
だからといって確めもせずに帰るのは、なかなか後味が悪い。
はぁ、と再びため息を吐き出して。
再び踵を返し、扉の前まで戻った。
大丈夫。
仮に、万が一がこの扉の向こう側で起こっていたとしてもきっと鍵がかかっているだろうから結局私にはどうする事も出来ないの。
だからね、大丈夫よ。
そう自分に言い聞かせながら、妄想が先走る脳みそを落ち着かせる為にそろりとドアノブへ手を伸ばして、それを回した。
「………………あり得ない」
瞬間、それはガチャリと地味な音を立てて、ゆっくりとその隔てを解いていった。
妄想=旗立
(…………不用心、過ぎ)