忠告と警告の境界線
死んでるのかと思った。
「は?帰る?」
「うん。明日からまた仕事だし」
そう言われたのは、数時間前の事。
金曜の夜、ケンジの提案に甘えて着の身着のままで彼の家にお邪魔して、そのまま眠りについた私。
土曜は一度も起きる事なくずっと寝ていて、起きたのは日曜、つまり今日のお昼前。
そこからご飯を食べて、お風呂に入って、息子からのメールに返事をして。
久々にたくさん寝たなぁ、なんて思いつつ、明日からまた仕事かぁ、と何気なく思えば、不意に気付いたそれ。
「いやお前、帰るなら普通平日の昼間だろ。今から帰るて馬鹿としか言うようがねぇんだが」
「……でも、」
「でもじゃねぇわ。何の為にここに来て、携帯の電源も切ってたんだよ……服なんか買えばいいだろうが」
そう。
服がないのだ。
今はケンジの部屋着を借りているけれど、これでは仕事に行けないし、金曜に来ていた服をまた来て行くなんてあらぬ事を噂され兼ねないから嫌だ。
となると、服を取りに帰るしかないと思ったのだが、何故か彼は目くじらを立てる。
「……一人暮らしのあんたはそれでいいかもだけど、私はそういうわけにはいかな」
「俺が買ってやるよ」
「……え、や、それはいいよ。取りに帰ればあるんだから服は」
「だから、それは自殺行為だっつうのに……何で分かんねぇかなお前は」
「……大丈夫だよ。そんな何時間も居るわけじゃな」
「お前な」
「っ」
「もうちょい危機感持て」
かと思えば、ずいっ、と近寄られ。
反射的に後ろへと下がったけれど、壁に行く手を阻まれて互いの距離はほぼゼロになる。
トン、と壁に手をついて、ほらな?なんて嘲笑する彼はさらに顔を近付けて。
「同僚で、友達。まぁそれに間違いはねぇけど……それ以前に俺は男だ」
「……」
「危険はいつでも隣り合わせ。安全とか、大丈夫とか……んなもん、あってねぇようなもんなんだよ」
「……」
「ここまで言ってもまだ分かんねぇなら、身体に教えるけど」
くつりと笑った。
忠告と警告の境界線 (とか言って何もしないの知ってるけどね)
(……うん。それ言ったらダメだろ)