その囁きは救いか罠か
最近、頭痛が酷い。
「おーい」
「……ん」
「大丈夫かお前……顔色悪いぞ」
そのせいなのか、夜はまともに寝れないし、食欲もわかない。
今日はもう帰れば?なんて、私の顔を覗き込みながら同僚のケンジは簡単げに言うけれど。
「……平気。ただの貧血だから」
最近は仕事をしている時が一番心休まるから、正直、帰りたくない。
あのレストランの一件から、約二ヶ月。
元旦那には、復縁は無理だと何度も言っているのに納得してもらえないし。
リツ君はリツ君で、家(うち)に来る頻度が格段に増えた。
というより、ほぼ毎日だ。
「……なぁ、サエコ」
「……ん?」
「お前さ、もう限界来てんじゃねぇの?」
私が居ようが居まいが私と息子の両方が居ない場合を除き、彼は家に居る。
残業でクタクタになって帰って、さっさと寝てしまいたくても、サエコさん、と彼はすり寄って甘えてくるものだから、体力的にもたなくて。
体力的にもたなくなると次は精神的なものがガリガリと削られてしまって、結果、頭痛や不眠や貧血に悩まされている。
「…………かも、ね」
ケンジの言うように、限界、なのだろう。
一声に恋愛と言えど、私のようなアラフォーは毎日会ったり、それこそセックスしたり、なんて無理なのだ。
色んな面で。
「サエコ」
「……ん?」
「しばらく俺ん家来るか?」
「…………は?何でそうな」
「家に帰りたくねぇんだろ?」
「……」
「息子君には話せる範囲で理由話して、友達の家に居るからって言えば余計な心配はかけねぇと思うし」
だから、リツ君とは少し距離を空けるべきなのかもしれない。
なんて思っていれば、良すぎるタイミングで差し出された救いの手。
「……けどあんた彼女居るんじゃ」
「居ねぇよ。俺の性格知ってんだろ?」
「特定は作らない、だっけ?」
「そ」
「……まだ引きずってんの?誰なのか知らないけど……初恋、だっけ」
「そ」
「意外と粘着なんだねあんた」
「うるせぇよ」
「……」
「……で?どうすんだ?」
さぁ、どうしようか。
なんて、答えはもう決まってるのに考える振りをして虚勢を張る自分が酷く滑稽だ。
その囁きは救いか罠か (……じゃあ……二、三日、だけ)
(別に好きなだけ居ていいぞ)