愛となんたらは紙一重 | ナノ

それは無理な相談です



さて、どうしようか。


「サエコ」

「……」

「久しぶり」

「そうね」


なんて、考え始めてから二週間が経過した。


「元気か?」

「それなりに。何の用?わざわざ呼び出すなんて、緊急なんでしょう?」

「緊急じゃないと呼び出したら駄目なのか?」

「そうね。緊急でも出来れば遠慮したいわ」


が、現状の打開策など欠片も浮かばず、別れた旦那から呼び出される今日この頃。

今までにも月に一度くらいの頻度で連絡はあったけれど、離婚して約二十年、彼からの電話で、会いたい、と言われたのは初めてだった。


「…………サエコ」

「何」


だから、なのか。

少しだけならと時間を設(もう)けたものの、やはり来るべきではなかったな、と早くも後悔。


「……やり直さないか?俺達」

「…………は?」


ワインのボトルとワイングラスの乗ったテーブルを挟み対面して座っているのは、一度は惚れて馬鹿みたいに愛した男。

過去の産物とはいえ、そんなセリフ言われたら悪い気はしない。

寧ろ、少しだけドキリとした。


「……そういう類(たぐ)いの話ならごめんなさい。帰らせてもらうわ」


だが、それとこれとは話が別だ。


「サエコ、」

「……あなたを愛したのはもう二十年も前の話」

「……」

「過去なのよ」


ガタ、と椅子から立ち上がり、ボーイに合図を送る。

それを受け取ったボーイが一礼してから歩き出したのを見て、私もその場から一歩踏み出した。


「サエコ」

「っ」

「帰らないでくれ」


なのにどうして。

あの時掴まなかった腕を、彼は今になって掴んだりするのだろうか。


「……やめて。離して」

「それは出来ない。あの時引き留めなかった事をこの二十年間ずっと後悔してた」

「知らないわよそんなの」

「……サエコ」

「……お願いだから、離して」

「チャンスが欲しいんだ」

「……」

「頼む」

「……」

「……サエコ、」


付き合う前から、彼のお願いを私は断れた試しがなかった。

頼むよ、と笑う彼が大好きだったから。


「……っ、無理よ」


けれどそれも、過去、なのだ。

イエス、と言ってしまいそうな自分を無理矢理押し込んで彼の手を振り払った。


それは無理な相談です
 (それでも、俺は諦めないから)
 (もう、関わらないで)


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