愛となんたらは紙一重 | ナノ

今更ながら宣戦布告です



何を言っても無駄、か。

ならばもう、何も言わない方が楽だ。


「……」

「……」


と、諦め半分、呆れ半分、で抵抗さえも止めてしまえば、待ってましたと言わんばかりに鳴り響いたピンポーンの音。

グッドなのかバッドなのか分からないタイミングで訪れたそれに、私も彼もお互い無言不動を垣間見せはしたが。

一定の感覚を空(あ)けて鳴らされるそれは、どうやら住人が在宅している事を知った上でのものらしく止む気配がない。


「……で……出た……方がいいんじゃ、ない?」

「……」

「……さっき……ドタバタしたから……下の階の人かも」

「……そう、ですね」


ここはマンションの中間に位置する四階。

マンションなど縦長の建物は横の音よりも縦の音が響くもので、ソファの上とはいえおそらく下にはそれが響いていたのだろう。

仮にそうでなくとも、彼の気を逸らせられるなら何でもいい。

今の体勢を解く事さえ出来れば、それで。


「……逃げようとか、思わないでくださいね」

「……」

「携帯、預からせてもらいます」


なんて思考はやはりお見通しらしく、すんなりと退いたかと思えば床に落ちている私のバッグから携帯だけを取り出し、それを持ったまま玄関の方へと向かう彼。

あっさりと外部への連絡手段を経たれてしまったけれど、別に携帯だけが逃げ出す方法ではない。

静かに響くスリッパの音を聞きながら身体を起こし、ガチャリとドアの開かれた音を聞きながら捲られたスカートを直す。


「どちらさ……っ、」

「よ。リツ」

「……に、い……さん」


そろりとソファから降りて、今しがた彼が歩いた軌跡をたどり壁にはりつけば聞こえた客人と彼との会話。


「いきなり悪いかなと思ったんだけど、近くまで来たから」

「……」

「上がっていいか?」


兄さん、と。

聞こえたそれが聞き間違いでないのだとしたら、きっと、これ以上のチャンスはないだろう。

見ず知らずの人間ならば、会話中に強行突破を、と考えていたのだが、客人が彼の身内となれば強行する必要がない。


「や、今……かの」

「リツ君。上がってもらったら?」

「っ……さえ、こ、さん」

「お兄さん、なんでしょ?せっかく来てくれたんだし、私はもう帰るから……ね?」


パタ、とスリッパを鳴らし。

あたかも気を遣っているかのような言い回しをしながら玄関へと近付いて、玄関口に立つその人へと軽く頭を下げる。


「……サエコさん、」

「あ、もしかして、リツの彼女……とか?」


投げ掛けられた言葉に、くすりと笑い。


「違いますよ。ただの知人です」


ちらりと横目で彼を見やりながら、靴を履いた。


「それじゃあ、さようなら」


かつりとヒールを鳴らした瞬間、何か聞こえたような気がしたけれど、私は振り向かずに歩き続けた。


今更ながら宣戦布告で
 (もう、情は捨てる)
 

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