Want is ?

 
嘲笑が、空気を伝った。


「流石、キャット様、だな。あんた」

「っ!ノア=マーシャル!口を慎みなさい!キャット様に向かっ」

「うっせえな。黙れ雌犬」

「っな」


豹変した彼の態度に、声を荒げるルーシィ。

しかしそれも威嚇じみた彼の声と鋭利な視線によって、半ば強制的に閉ざされてしまう。


「なぁ、キャット様。あんたのお得意の計算はいつから始まってたんだ?」


ベタベタの口元を袖で拭い、食べ終えてソースや油などの汚れしか残っていない皿に彼はフォークを投げた。

カシャン、と小さな音が短く響く。


「まさかとは思うけど、俺が産まれた瞬間から、だとかそんな馬鹿げた事は言わねぇよな?そんな事そもそ」

「ねぇ、ノア」

「あ?」

「彼女は雌犬じゃないわ。ルーシィっていう名前がちゃんとあるのよ」


ふふ、と。

微笑を浮かべながら彼女が話せば、テーブルを挟んで対面する彼はゆっくりと背もたれから背中を離す。

未使用のナイフを手に取り、迷いなくそれを"キャット様"へと向ける。

しかし彼の視線自体は、何故か"キャット様"の背後に立つ己に向けられていた。


「両手を見えるとこに出しておけよ、護衛さん……いや、元隊長、っていうべきか?ブラッド隊長」

「……」

「あんたは覚えてねぇだろうな。捨て駒は腐るほど居た。毎日どっかで死んでる。いくら伝説と謳われてる隊長様でも把握なんか出来やしねぇよなぁ」


例えば彼が、多少腕が立つだけの輩であったならその手にあるナイフ奪い目玉のひとつぐらい潰せただろうが、残念ながらそうではない。

新人とはいえ、己と同じ訓練を耐え抜いた者だ。

ナイフといえどたかが食器で何が出来るのだと見くびれば間違いなく"死"が訪れる。己に、ではなく、何を差し置いてでも護るべき存在である"キャット様"に。


「は。流石、伝説の隊長様だな。聞き分けがいい」


現状を考えれば仕方あるまい。

銃へと伸ばしていた手を引き、彼に見えるように肩の辺りまで持ち上げた。


「って事でキャット様。答えてくれるよな?」

「……」

「俺にエサ与えてどうしようっての?」

「……」

「我らが隊長と同じように、俺の事も取り込もうって魂胆か?」


ん?と首を傾げる彼の目は弧を描き、口角はゆるりと上がっている。

彼は、取り込まれたい、のだろうか。自分は特別なのだ、と。そう言いたいのか。


「いいえ。だって私、同時に二人以上は愛せないもの」

「……あ?何言っ」

「私のナイト様は、彼だけよ」


ちらり、"キャット様"の視線がこちらを向くも、直ぐに元の位置へと戻る。


「……なるほど。枠はひとつ、って事か」


彼女のそれと入れ替わるように、彼の視線と言葉が自身へと向けられた。
 

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