A caller
それなりの頻度で訪れる彼女の"気紛れ"を除けば、"キャット様"の一日は予定通りにこなされる。
大した変化もなく過ぎ去った三ヶ月という時間。来客も予(あらかじ)め組まれている予定以外のものは一切なく、今日もまた、変わらぬ一日が始まるのだろうと思っていた矢先にそれは起きた。
「久しぶりだな、キャット……ルーシィも、」
珍しく、来客予定のなかったこの日。
鳴るはずのない来客を知らせるチャイムが鳴り響いたかと思えば、ルーシィが開いた扉の向こう側で小汚い格好をした男性がにこりと微笑んでいた。
「……ヴァハター様」
「シルヴィっ!」
かと思えば、僅かな困惑を浮かべるルーシィの横を通り抜け、その男性のものと思われる名を呼びながら文字通り男性へと飛び付く"キャット様"。
まるで親の帰りを待っていた子供のように喜びを全身で表し、にこり、などという表現では到底足りない笑顔を浮かべる彼女は、この三ヶ月間を基に考えると明らかに異常だった。
「シルヴィ、今日は泊まれるのでしょう?」
「いや、そ」
「ああそうだわ。シルヴィ、庭へ行きましょう?」
「ああ、い」
「アナタに貰った樹、私ちゃんと育ててるのよ。是非見てちょうだい。あと、」
「キャット。落ち着いて。手厚い歓迎は嬉しいが僕の身体はひとつだ。順番に頼むよ」
「ああそうよね、シルヴィ……ごめんなさい。私……アナタに会えたのが嬉しくて……つい、」
変わらず、男性に抱きついたままの"キャット様"。普段なら間髪入れず声を上げるルーシィも今日は黙ってその様子を見ている。
まるでそれが、当たり前だと言わんばかりに。
「いいんだよ、キャット。ところで、また、変わったのかい?キミのナイト様」
いや、彼らにとってはそれが当たり前なのだろう。
目の前で繰り広げられている光景を異常だと感じているのは、おそらく己だけだ。
「……ええ、そうなの」
男性の言葉によって忘れていた存在でも思い出したのか、あ、と彼女は小さく声をこぼす。
そしてゆっくりと密着していた身体を剥がし、視線を俺へと向けた。
「紹介するわね、シルヴィ。私のナイト様よ」
ふふ、と。
甦る微笑。
それに寄り添う男性の視線。
「シルヴィオ=ヴァハターだ。よろしく、キャットのナイト様」
あからさまな鋭さを孕(はら)みながらも真っ直ぐなそれに、ゆっくりと頭を下げた。
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