Inescapable fate
おそらくこれを、人は"デジャヴ"と呼ぶのだろう。
「……今、何と、仰いました?」
「子供を作れ、と言ったのだ。そう驚く事でもないだろう?ブラッド」
「……」
「心配せずとも"キャット様"は十分、キミに懐いているよ」
"キャット様"の言葉と視線に、喉がうねったあの時、さも見ていたかのようなタイミングでかけられた本部からの呼び出しは、やはり救いなどではなかった。
お得意の微笑と共に、行ってらっしゃい、と快く彼女は見送ってくれたが一度生まれたわだかまりはそう易々となくなりはしない。
そんな状況の中、告げられたその言葉を思わず聞き返してしまったのはまだ己にも辛うじて人間味が残っていたからだろう。
「もう少し手懐けてから、と思っていたのだが……少々厄介な事になってな」
手懐けて、という言葉から元よりそのつもりでいたのだという事は容易に想像がつく。
処したりはしないわ、と。以前、彼女が微笑を浮かべた時に感じた違和感の正体はおそらくこれだろう。
命の危険がないにも関わらず、二十四時間の護衛。
主たる目的が護衛ではなく、二十四時間を彼女と共に居る事なのだとすれば腑に落ちなかったそれにも頷ける。
「厄介な事、ですか」
「……マーシャルという姓に聞き覚えは?」
「……昨日、その名を聞きました」
とはいえ、その先の目論見(もくろみ)までは計りかねる。
違う方向へと飛んだ話にゆるりと相槌をうてば、視線の先に居る彼は眉根を寄せた。
「……ノア=マーシャルだろう?彼は、キミ達の所に赴いたあと、"キャット様"が欲しいと直々に私の所へ来た」
「……」
「彼の一族がどういうものか、キミは知っているか?」
「いえ、詳しくは……ただ、呪われた一族だというのは耳にしています」
「……ああ、そうだとも、ブラッド。マーシャル一族は呪いと引き換えに富と権力、そして不死を手に入れたと云われている」
「……信じておられるのですか?」
「ブラッド。私は自分の目で確かに見た事は信じる事にしている。それがどんなに現実離れしていたとしてもだ」
「……」
「私はね、見たのだよ……ブラッド。だから彼をキミのように私の側に仕えさせているんだ……まぁ、安くはないがな。彼の価値を思えば彼が求めたものを用意するぐらい容易かった」
「……」
「だが"キャット様"だけは、駄目だ」
「……何故です?」
"欲しい"に含まれた意味がどのようなものであるかによって、おそらく彼の下す決断は変わる。
呪われた一族からの申し出だ。食材として、を危惧しても何ら不思議はない。
だが、話の流れから察するに危惧しているのはそれではないのだろう。
「……"キャット様"の脳は私の……いや、私達の最高傑作……そして彼女から産まれる脳もまた最高傑作でなくてはならないからだ!」
ダンッ!と彼の拳がテーブルに打ち付けられた。
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