Pop quiz

 
ある程度なら、変化を起こさない自信はあった。


「……今、何と、仰いました?」

「何故ルーシィを抱かなかったの?と聞いたのよ」

「……」

「不能なの?それとも、ゲイなの?」


しかし、これ程までにストレートな物言いをされてしまうと多少は動揺もする。


「……どちらも違うと、認識していますが、」


ちらり、時計に視線を向け時刻を確認すれば、午前三時を回ったところ。

話の中に上げられている人物が仕事の為にここを訪れるまでの残り時間はおよそ一時間半。包み隠さず"キャット様"の問いに答えたとしてもそれが直接彼女の耳に届く事はおそらくないだろう。

彼女に伝う事があったとすればそれは、"キャット様"の口からだ。


「あら。勃つには勃ったのかしら?」

「……いえ、あの、」

「勃ちもしなかったの?」


とはいえ、夜も明けぬ内からコーヒー片手にするような内容の話ではない。

無論、コーヒーを啜っているのは"キャット様"だけだが。


「……差し出がましいとは思うのですが、もう少し言葉を選んではいかがですか」

「これは失礼。気を付けるわ」

「……」

「それで?」

「……はい?」

「ルーシィはキミの好みではなかった、という事かしら」


無駄だと知りながら悪足掻きをしてみればやはりそれは無駄に終わり。カチャン、とコーヒーカップは静かに相棒の元へと戻される。

ジ、と真っ直ぐに見つめてくる彼女の正確な年齢は知らされていない。見た目だけで言えば二十歳前後に見えるが男女の事に興味を示すのは、それよりも幾分若い、という事なのか。

どちらせよ、答えない、という選択肢は最初から与えられてなどいなかったのだ。


「……仮に、ですよ。仮に、誘いを受け、彼女を抱くとしましょう」

「ええ」

「事に及んでいる最中、貴女に何も起こらないという保証はありません」

「そうね」

「リスクを負ってまで性欲処理を行(おこな)うほど愚かではないと思っています」

「……」

「好み以前の問題です」


ふ、と小さく吐いた息のあとに言葉を綴れば、形の良い唇がゆるりと弧を描いた。


「……素敵。まるで模範解答ね。きっと誰もがこう言うのでしょうね、満点だ、と」


ふふ、と。

鼓膜を揺さぶるいつもの微笑。


「けれど、」


しかしそれも束の間。

ストン、と落ちた声のトーン。

先程まであった曲線が跡形もなく消えた唇。


「私のナイト様としては、落第点ね」


向けられている視線に変化などないはずなのに、ごく、と喉がうねった。
 

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