恋愛の沙汰もなんとやら | ナノ


▽ バカ兄貴ユアの苦悩


 
基本的に、私は平和主義者だ。


「もうさ、三回くらい死ねば?」

「……」

「何でそう自分勝手なのあんたって」

「……」

「口悪い手癖悪い足癖悪い性格悪い頭悪い」

「……」

「取り柄は顔だけ。クズ、ゴミ以下。あんたの妹ってだけで人生半分終わってんのに双子だとか本当ドン底人生、世界中の不幸を背負ってるよね私」

「おま……そこまで言わなく」

「何。何か文句あんの?」

「ないです。ないので明日マジでお願いします」

「めんどくさい」

「頼むアユ」

「めんどくさい」

「お前が来ねぇとナナが泣くんだよ」

「想像でもの言ってんじゃねぇぞカスが。ナナセがそんなんで泣くわけないじゃん」

「ば、おま、俺の前じゃ泣くんだっつうの!」

「死ね。五回死ね」

「いくら俺でも死ねるのは一回きりだっつうのボケが」

「……」

「あ……いや、あの、アユ……スマン。口がすべっ」

「明日行かないから」


しかしながら。

しまった!!

と、そんな表情を露(あらわ)にして慌てて自分の失言を取り消そうとする双子の兄に対して私は容赦などしない。

ぺっ!と唾を吐き捨てるかの如く、低い声を吐き出して、ソファに下ろしていた腰を持ち上げた。


「ってめぇくそアマざけんなよ性格ブスが!人が下手(したて)に出りゃ調子に乗りやがって!てめぇのワガママいくつきいたと思ってんだ!鞄も靴も財布も服もアクセも全部買ってやっただろうがたった一日のダブルデートぐらい文句言わずにこれねぇのかよ!!」


するとどうだ。

さっきまであんなに汐(しお)らしくしていたくせに、目の前のバカは一瞬で手のひらを返しやがる。

いくら下手(したて)に出たって性根の腐ったあんたじゃバレバレなんだよユア君。

腐敗臭ぷんぷんだからね。

そもそも、鞄も靴も財布も服もアクセも、たまたまあんたと居るときに欲しいと思ったものがあって、たまたま欲しいなって言葉に出ちゃっただけで買ってなんて一言も言ってないのに勝手に買ったのはあんたじゃん。

それについてはちゃんとありがとうってお礼言ってるし、買ってくれた時に買ったからダブルデートに来てくれなんて一切言われてないわけだし、それとこれとは話が別じゃない?

買ってやったんだからついて来いよ!なんて、それこそあんたのワガママでしかないし。

買ってやったんだからついてくるだろ?なんて、それこそあんたの勝手な思い込み。


「ええそうね、ダブルデートに行かない理由を聞かれたらユアがそう言ったからってちゃんとナナセに説明しておくわ」

「あ?何いっ」

「だって、性格ブスでワガママな私がダブルデートなんて……迷惑かけるだけだもの、ね」


もとより、ダブルデートの件についてはナナセから何度も何度もお願い!と大きなおめめをうるうるされた挙げ句、一日限定百箱のマカロン(五個入り)を賄賂に差し出された事で既に話はついている。

とどのつまり、貴様の頼みをきく気など私は最初(はな)から持ち合わせちゃいないのだ。

勿論、ナナセには男共には当日まで内緒だよ!サプライズだからね!って口止め済み。

サプライズ!?わお!ドキドキするね!なんて、にっこにっこしてた彼女は本気で小悪魔だと思う。


「ちょ、アユ……た、頼むから」

「さすが、双子だよね」

「あ、アユ……ちゃん……あの、な」

「私の性格よくお分かりで。ね。お・に・い・ちゃ・ん」


どうせ明日は幸せいっぱい胸いっぱいになるんだろうから、今はこれでもか!っていうぐらい悶えて苦しんで悩めばいいよ。うん。

それが青い春ってやつよ、なんて、ね。


カ兄貴ユアの苦悩
 (マジで頼む!この通り!何でもきいてやっから!)
 (何でも、ねぇ)
 

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