▽ 聖なる夜の悪巧み:前編
皆で、って。
最後に付け足されたけど、それでもイブに誘われただけで何か幸せ。
「あ、ユア!私のサーモン取ったでしょ!」
「あ?トロいからだろ馬鹿」
「アユ。俺のやるよ。だからそんな怒んなって」
「……キリヤはユアに甘過ぎだよ」
「おーキリヤは俺の事愛してっからな」
「まぁ、顔がアユと同じだからな」
なんて、思ってた俺は底なしの愚か者だ。
どれだけ彼女の甘い甘い猛毒にやられてしまっているのだろうか。
視線の先にはサーモンをめぐり、顔をしかめるアユとそれを嘲笑うユア。そして、アユをなだめているキリヤの姿。
ガヤガヤと賑わう雑音の中で交わされている会話だというのに、彼らの声だけはやけに鮮明に聞こえてイライラは急上昇。
何であいつが居るんだよ?とユアに聞けば、パーティーは大勢の方が楽しいだろ、だとか。
確かに、パーティーは大勢でやるに限るし、大勢というだけあって人が、主にユアの知り合いがわんさか居る。
別にそれをとやかく言うつもりはないけれど。
「……キリヤごめんね?ありがとう」
「ん」
あれは、ねぇわ。
「不機嫌全開だね。シノハラ君」
「……そりゃあ、な」
「仕方ないよ。アユってそういうの疎いから」
と、醜い嫉妬をあからさまに顔に出せば、 クスクスと笑いながら話しかけてきたのはユアの女。
確か名前は、ナナセ、だったか。
嬉しそうにサーモンを頬張るアユの頭をさりげなく撫でるキリヤからあからさまに視線を外してそいつを見れば、顔がニヤニヤしていた。
「邪魔してくればいいのに」
似た者夫婦、とたまに聞くけれど。
それはカレカノにも適用されるのか、ニヤニヤしながらそいつは数日前にユア言った言葉と似た事を言う。
「……俺に邪魔する権利はねぇだろ」
確かに話に割って入ってここぞとばかりに邪魔すればその瞬間は満足するだろうけど、それ以降は多分虚しさでいっぱいになる。
それなら、いっそ、イライラしながら堪えている方がいい。
「そうかなぁ」
「……」
「ナナとアユとユア君の三人でパーティーの計画立ててた時にね、ユア君がアユに、今日のパーティーに誰か誘えば、って言ったの」
「……」
「そしたら、アユはシノハラ君一択だったよ」
「……」
「というか、」
「……」
「アユは四人だけがいい、って、言ってたんだよね」
そう思って、少し離れたところから見ていたのに。
「アユは他人の気持ちは勿論、自分の気持ちにも鈍感だけど、その分さ、躊躇いなく言葉にしちゃうコだから」
「……」
「シノハラ君だって、もしかして、とか思ってるでしょ?」
「…………お前、ニヤニヤし過ぎ」
「だぁってさぁ、二人とも焦れったいんだよね。さっさとくっついて欲しいんだもん」
どうしてこいつは、こうも俺を煽るのだろうか。
「でないとさ、いつまで経ってもユア君を独り占め出来ないんだよね……ナナが」
なんて、愚問だったか。
聖なる夜の悪巧み:前編 (可愛いのは顔だけだな、こいつ)
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