▽ ふらいんぐサンタ
彼女はまだあの男と話しているのだろうか。
「……あ、じゃあ、私は、これで……あの、連絡……しても」
「いいよ。別に」
「……っうん、ありがとう。じゃあね」
女と話していても。
連絡先を交換し終えて、赤い頬を携(たずさ)えたまま教室から出て行く女を見ている時も。
頭の中は、どう足掻いても手に入らない彼女の事ばかり。
あの女ごときじゃ気も紛らわせられないらいしけれど、それでも一人で居たらきっとあの二人の事を想像して発狂してしまうだろうから。
ないよりはマシだ。
まぁ、問題は冬休み中だな。
「…………ノゾム」
「……え、」
と、スクールバッグを手に取れば、ずっと頭の中からも、鼓膜からも離れてくれなかったあの声が背後から聞こえてきた。
「……アユ」
振り返れば勿論、彼女が居て。
俺の声に反応して、ん?と小首を傾げた。
「……てか……ノゾムはクリスマス、さっきのコと過ごすんだね」
「…………え、」
「あ、ごめんね?立ち聞きするつもりはなかったんだけど……出て行くタイミング逃しちゃって」
その仕草が可愛い過ぎて、言葉に詰まるなんて情けない。
せっかく、お節介サンタが慰みを恵んでくれたというのだからそれを生かさないなんて、馬鹿でしかないだろう?
学習しろよ、俺。
「……でも……やっぱ、空気、読まなきゃ良かった」
「……え?」
「二十三日から二十六日の夜までお母さんが旅行で居ないから、イブに家に泊まったり出来ないかな、って誘おうと思ったんだけど」
「………………え?」
「一足……や、結構、遅かったね」
と、自分を叱咤した瞬間、不意にそれを思った。
もしかして、あの女はアフターケアなんかじゃなく、単なる試練だったのでは?と。
「っちが、あれは、」
「……え?」
お節介だとか言ってごめんなさい、サンタさん。
謝ります。
謝りますから。
「イブ、空(あ)いてるから、その、」
「でも、さっき約束して」
「してねぇ。まだしてねぇから、だから」
「……本当に大丈夫なの?無理してない?」
「っ大丈夫。無理してねぇ、全然」
少し早いクリスマスプレゼントを、俺にください。
ふらいんぐサンタ (分かった。じゃあイブに。皆で騒ごうね)
(…………え…………みん、な?)
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