恋愛の沙汰もなんとやら | ナノ


▽ 聖なる夜の悪巧み:後編



もしかして、だとか。

もしかしたら、だとか。

今までに何度それを思い、何度それを馬鹿らしいと自嘲した事か。


「……アユ、」

「……え、あ……ノゾ……ム」

「話してるとこ悪ぃんだけど、ちょっといいか?」

「……え……や、あ、あの、」


奇跡なんて信じてないし、それに頼るようなキャラでもないけれど。

聖なる夜と銘打たれたこの日ぐらいは、とその奇跡とやらを願いながら彼女の名前を呼べば、珍しく動揺をあらわにしてオロオロされる始末。

やっぱり、やめておけば良かったか。


「……キリヤ。アユ借りるな?」

「…………ああ、」


と、思えど、ここで尻尾を巻くような情けない奴にはなりたくない。

オロオロ、オドオド、と視線を泳がせてばかりの彼女の手を掴んだ。


「…………寒いか?」

「……え、あ、ううん。大丈夫」


彼女の小さな手を引いてバルコニーへと向かえば、ふわりと白い息が漂う。

大丈夫だと彼女は言うけれど、多分、寒いはず。


「……」

「……」

「……」

「……ノゾ……ム?」

「え、あ、」


中に戻るか?

いやでも、中には人がたくさん居るから外に来たわけで、戻ったら元も子もないよな。

なんて事を悶々と考えていたら、顔を覗き込まれ、やけに近過ぎるその距離に脳内はさらにパニックを起こす。


ああ、そうだ。

わざわざ話してるところを邪魔してまでここに引っ張って来たんだからちゃんと言わなきゃ。


「……」

「……」


と、そう思うのに。

観覧車でのあのあり得ない一件が割とトラウマ化していて、ただ、好きだと伝えるだけじゃ足りないのだという強迫観念に駆られる。

なのに、本人を目の前にするとそれまで頭の中に並べていた言葉なんて全部どこかへと飛んでいってしまって、何を言えばいいのか分からなくなるという悪循環。


俺にどうしろっつうんだよ。


「ねぇ、ノゾム」

「…………え、」

「あのね、もし、誰かと話してる時にノゾムが呼びに来たら聞きなさい、って、ナナセに言われてた事があるから……その……質問……してもいい?」

「……あ、うん」

「その質問には、正直に答えてね?はぐらかしたり、嘘とかは……なしだよ?」

「……うん」


なんて、叫びたい衝動と人知れず戦っていれば、彼女は覗き込む姿勢は解除して、くてん、と小首を傾げた。


「……私の、彼氏になってくれますか?」


かと思えば、彼女がそれまで合わさっていた視線を、ふいっ、と外して、照れたような表情を浮かべるものだから。

おそらく誰かに見られているのだろうけれど、どうにもこうにも我慢できなくなって。


「……っ、」

「ん、」


イエス、と言葉を返すよりも先に。

ちゅ、と冷えた唇を重ねてしまっていた。



 (きっと、ずっと、キミには敵いません)
 

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