▽ ふらいんぐサンタ
物心ついた頃から、他人に興味を抱いた事がなかった。
だから、正直、自分でも戸惑ってる。
「ノゾム」
「……ユア」
「お前さ、まだ誘ってねぇの?」
「……」
「買い取ったからって余裕こいてっと、あいつ何気にモテるから新しい男すぐ出来るかもよ?」
自らの手を汚し、労力や金を費やしてまで誰かを護ろうと思った事に。
というよりも、そんな存在が自分にいたのだという事に。
「……誘ったら、断らねぇだろ……アユは」
「だろうな。あいつ変に真面目だからな」
「……それじゃ意味ねぇから……俺は誘わねぇ」
あと五日で、イブ。
あと六日で、クリスマス。
明日からは冬休み。
「じゃあいいのかよ?あれ」
「……良くはねぇけど」
だから、だろう。
視線の先では今しがた話題に上がったアユと見知らぬ男が何やら話している。
だが、三階の廊下の窓からそれを見下ろしている俺やユアには何を言っているのかまでは聞き取れない。
「なら今すぐ飛び降りて邪魔ぐらいすれば」
「……馬鹿かお前」
「何で」
「んな事したらきら」
「われねぇから。つうかそんぐらいしねぇと気付かねぇからあいつ」
だけど、クリスマスが近付いているこの時期に、ああやって呼び出してまで何かを話しているというのは、きっとそういう事なのだろう。
「気付くも何も……アユがどうするかはアユが決める事だろ」
「……案外……堪えるんだな。お前」
「……」
「ま、八つ当たりされねぇならそれでいいしな俺は」
「……」
「じゃあな」
真横にあった気配が去っていくのを感じながらも、視線は未だ彼らに向いたままで。
どことなく二人が楽しそうに見えるのは気のせいであって欲しいけれど、多分違わないだろう。
「…………諦めろ、って事か……?」
窓の下を見たのは本当に偶然だったけれど。
もしかするとその偶然は俺にとって、必然、だったのかもしれない。
ふらいんぐサンタ (……お節介なサンタだな)
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