恋愛の沙汰もなんとやら | ナノ


▽ 意地悪神様の試練C



プルルルル、プルルルル、と呼び出し音が鼓膜に響く。

けれど、それよりも鮮明に聞こえたのは緊張というものにうち震える自分の鼓動。


《……はい》

「スピーカーにしてキリヤを出せ」

《はい》


五回目のコールが鳴った直後、スピーカーにして地面に置かれたシノハラ君の携帯から放たれたのは、キリヤのものではない男の人の声。

シノハラ君の言葉に返事をしたそれの後で、コトン、と何かを置くような音が響いた。


「……よぉ、生きてるか」

《…………お陰様で》

「それは何より」

《……》

「お前にプレゼントがある。いいか、五分やるから精々後悔しねぇようにしろよ」


かと思えば、覇気のない声が四角い機械からゆるりともれる。

聞き覚えはあるのに初めて聞く弱々しいそれに、思わず息を飲んだ。


「キノシタ」


だが、そんな私の動揺など彼には関係ない。

喋っていいぞ、と。

向けられた視線に従って、地面に横たわる携帯に自身の視線を向ける。


「……きり、や……?」

《……アユ?》

「キリヤ、今ど」

《聞くな。いいかアユ、今すぐ家に帰れ》

「え、な、ちょっと、キリヤ」

《……何度聞かれても答えはノーだ。そこは譲らねぇ》

「……キリヤ?それ何のはな」

《お前は知らなくていい。どうせこの会話も聞かれてんだろ》

「……」

《アユ》

「……何?」

《俺に何があってもお前のせいじゃねぇからな》

「……それ……何かある……って事、だよね?」

《……》

「ねぇ、キリヤ。何の話か分からないけど、お願いだから、うん、って言って」

《……》

「私、確かにキリヤに恋愛感情はないよ……でも、キリヤに何かあって、それでも平気な顔出来るほど薄情じゃない」

《……》

「心配だってするし、無事で居て欲しいって思ってる。だから、お願いだから、」

《……》

「……っ、おね、がい……だ、から、」


ゆらりと揺れる視界。

声は掠れ、ふるりと震え、喉で躓(つまず)き、途切れる。


「……っ、き」

「終了」

「っ」

「残念。五分経過」


それでも、と。

無理矢理にでも声を絞りだそうとした瞬間、シノハラ君の声がそれを遮り。

ツー、ツー、ツー、と無機質な音だけが足元から這い上がってきた。


意地悪神様の試練C
 (後は、あいつ次第、だ)
 (…………分かった……電話、ありがとう)


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