恋愛の沙汰もなんとやら | ナノ


▽ バカ兄貴ユアからの警告


 
言葉という文明は、一見すると非常に便利なものだが、見方を変えると非常に不可解なものでもある。

そう、残酷なほどに。


「おいっ、アユ!」

「ん?」

「お前、ノゾムに何話した」

「え?」

「先週、ノゾムと一緒に帰った日があっただろ。その時に何を話したんだって聞いてんだよ」


たった今、帰宅したのだろう。

ぜぇ、はぁ、息を切らしながら、ノックもなしに部屋のドアを開ける双子の兄、ユア。

着替えの為、制服を脱ぎ捨てたばかりの私は勿論下着姿なのだがやはりそこは双子。全く気にしない。


「……先週……ああ、お父さんの事とか、キリヤとの事を少し、」

「少しってどれぐらい」

「は?」

「どこまで話したかさっさと言え」

「……別に大した事は」

「お前はそうでも、あいつにとっちゃそうじゃねえみたいだぞ」

「え?」

「親父が死んだ」


そう、私達は双子。

だからこそ、ユアの吐き出したそれが嘘かどうか、瞬時に判別出来る。


「……なん、で」

「……酒飲んで、車運転して海にドボン」

「……」

「って聞いたけど、多分違う」

「……」

「車から出た遺体は親父だけ。けど親父は」

「一人で車に乗らない」

「……ああ」


職業柄、と言っていいのか疑問だけれど、あの性格も相俟ってユアいわく父には敵が多いらしく、車だけに限らず、トイレやお風呂さえも絶対に一人にはならないのだと言う。

そんな父がいくらお酒を飲んだからといって一人で車を運転するのは酷く不自然。

と、まぁ、その理屈は分かるのだが。


「……あと、」

「……何」

「キリヤと連絡が取れねぇ」

「……忙しい、んじゃない?」

「ならいいんだけどな。ノゾムにお前が話したとなるとそんな呑気な事言ってらんねぇだよ」


どうしてそこで、シノハラ君の名前が出て来るのだろうか。


「……アユ」

「何?」

「お前、何でシノハラ君?みたいな顔してるけど」

「何で分かるの」

「双子だからな」

「……だって、そうじゃん。シノハラ君はただの」

「クラスメート、だと本気で思ってんならお前マジでそのうち詐欺にあうぞ」

「っな」

「あいつがただのクラスメートなら、ダブルデートごときでお前に頭なんか下げねぇよ」

「……あれはナナセが」

「逆。ナナにせがまれたんじゃねぇ、俺がナナに頼んだんだ」

「……や、そんなの有り得な」

「その有り得ねぇ事を俺にさせるくらいのもんをあいつは持ってるって事だよ」


なんて、疑問を抱けてしまった私はきっと、世界というものを知らなさすぎたのだろう。


「アユ」

「……何」

「お前に、こっち側の事を理解しろとは言わねぇ」

「……」

「けど、無関係じゃねぇ、っていう事だけは忘れるな」

「……」

「お前にとっちゃ何でもねぇような事でも、誰かにとっちゃ命に関わるような場合だってあるからな」 

「……ごめん」


ぎゅ、と着ようとして着れずじまいだったTシャツを無意識に握りしめていた。


バカ兄貴ユアからの警
 (とりあえず、服着ろ)
 (…………うん)


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