▽ 同級生シノハラ君からの謝罪
何も考えていないわけじゃない。
ただ、先を読めていなかっただけ。
「それ、本気で言ってんのか?」
キリヤの事もあるしどうしようか。
と、一瞬悩んだけれど、ナナセに貰った割引券を無駄にするわけにも行かず。まぁ昨日の今日で、しかも偶然バッタリ、なんてありはしないだろうとシノハラ君を誘った私。
クレープの噎せ返るような甘さを堪能しながら、例の件について丁重にお断りをしたのだが、納得のいく理由が欲しいと食い下がられ、まぁ私が言わなくてもユアが話すかもしれないしな、と出し惜しみせずに理由を述べたところ、ナナセと似たような返事を返されてしまった。
「……まぁ、うん」
本気で、というか、私にはそれ以外の選択肢などないのだから仕方ない。
コク、と小さく頷いて、漂う気まずさを誤魔化すように、ぱく、とクレープを一口頬張った。
すると、シノハラ君は、ふぅん、と相槌を打っただけで、それ以上は何も言わず、私が奢ったクレープにかじりつく。
口端に生クリームを付けたままもぐもぐと咀嚼(そしゃく)する彼の横顔をちらりと横目で確認しながら、例の件についてはこれで話を終わらせていいのだろうか、としばし思案。
まぁ、あまり掘り下げられたくはないから、これで終わりならそれはそれで。
「…………た、」
「……」
「……のした、」
「っ、え」
「落ちてる」
「え、あ、」
と、そんな風に頭を使うとどういうわけか手が疎かになってしまうらしく。
真横から聞こえた声に、はっ、と意識を戻せば手に持っていたクレープの中身はものの見事に足元でべちゃり。
何やってんだよ、と生クリームをちょこんと付けたまま彼が笑った。
「……シノハラ君だって、ついてるよ」
「っ」
「ここ」
だから私も、笑ってやった。
弟とか妹がいたら、こんな感じかな。
なんて、口端についているそれを人差し指で拭って、ほらね、とからかってやった。
するとどうだ。
「……っ、あ、あり、がと」
「え、あ、う、うん」
みるみる内に赤く染まってゆく彼の頬と耳。
照れたように、ふいっ、と視線を逸らしつつもお礼はちゃんと言ってくれたものだから何故かこっちまで照れくさくなる。
自分でも分かるくらい急速に熱を帯びる頬。
真横に居る彼と同じくらい、私の頬も耳も赤いのかな。
「……キノシタ、ごめんな」
「……え?」
「俺、やっぱりお前の事、好きだ」
と、そんな事をぼんやりと思えるほど油断していたのが、まさか仇(あだ)になるなんて。
「本当、ごめんな?」
ふ、と目を細めて彼が笑った。
「……っ、」
瞬間、ちゅ、と唇に触れた、何か。
「クレープ、ご馳走さま」
ふわりと漂った噎せ返るくらい甘ったるい香りに、くらりと目眩がした。
同級生シノハラ君からの謝罪 (そもそも失恋に納得も何もねぇよな)
(…………あれ、何か、悪化してない?)
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