▽ 親友ナナセからの餞別
拒む、という行為は残酷なほどに簡単だ。
「それ、マジで言ってる?」
「うん」
週で一番だるい、月曜日。
誰に、と言わずとも、私からでなければユアからしか聞けないであろう事柄を、おはよう、よりも早く口走ったナナセにかい摘まんで説明してみたのだが。
「……ないわ、」
「え?」
「アユの、お父さんもあり得ないけど、そういう事知っててアユを縛ってるその男もあり得ない」
「……」
「消えちゃえばいいのに」
声が怖いです。ナナセさん。
「……キリヤもキリヤで色々と複雑でさ」
「だからって、」
「いいの。どのみちシノハラ君にはごめんなさいって言うつもりだったし」
正直なところ、父に私の所在が知られたとしても、既に買われた身である私に危険が及ぶ事はない。
が、母は違う。
どんな手を使ったのか、父が服役している間に離婚を成立させた母は未だ父の影に怯えて暮らしている。
キリヤという後ろ楯が居る私に父は興味すら示さないのだろうけど、実質的に父から逃げた母は見つかればどんな目に合わされるか、想像すらしたくない。
「……余計なお世話かもしれないけどさ、」
「うん?」
「アユとシノハラ君、ナナはお似合いだと思ってる」
「……」
「ねぇ、アユ」
「……ん?」
「本当にそれでいいの?」
そうなると必然的に、私の選択肢、なんてものは存在すらしなくなる。
キリヤは馬鹿みたいに振る舞ったりしているけど、馬鹿じゃない。すると言えばするし、しないと言えばしない。有言実行、良くも悪くも自分の言葉に責任を持つ男なのだ。
「うん。いいの」
「……そっか」
はは、とわざとらしい笑い声をこぼせば、ナナセは眉を垂れ下げる。
「……アユがそうするって決めたなら、ナナは見守るね」
腑に落ちないといった表情を浮かべつつも、ナナはいつだってアユの味方だから、と心強い言葉をくれるナナセ。
マジでこの子は天使だ。
「あ、そうだ!これ!」
「……ん?」
「クレープの割引券、あげるからシノハラ君と食べておいで」
「え、」
「デート、ドタキャンしたんだからお詫びはしなきゃでしょ」
「……」
「最初で最後。ちゃんと向き合って、真剣に断っておいで」
なんて思ったのも束の間、彼女の被っている天使の皮がぺらりとめくれかけた。
親友ナナセからの餞別 (ね?行くよね?誘うよね?)
(…………う、うん)
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