恋愛の沙汰もなんとやら | ナノ


▽ 意地悪神様の試練A


 
双子なのに似ているところがほとんどない。

と、それが当てはまるのは何も見た目や中身だけに限った話じゃない。


「……っん、」

「……っ……アユ」

「あっ……っ、」


ギシギシとベッドを軋ませながら、私の上で息を乱す彼は、私にこそ欲情すれど、ユアにはしない。

それと同じ要領で、双子でなくとも子供というカテゴリーに当てはまるはずなのに父は私を人間としては見ていない。というより、女という生き物を人として扱わないのだ。

男尊女卑。

そんな言葉が服を着て歩いているようなもので、ユアは男だという理由だけで、可愛がられ、甘やかされてきた。

対して私は、いや、私と母は、それこそ地獄だった。


「っ、アユ、締めすぎ」

「……あっ、ん、っ」

「そんな、いいかよ?」

「んっ……や……っ、」

「……は……そりゃ、親父さ、っん……も、商品にした、く、なるわな」


股を開くしか能がない。

事あるごとに私と母を、というより、女というものをそう言って卑下していた父は母を風俗で働かせ、私を愛玩用として売ろうとしていた。

処女なら倍払う。

そう言われて、父が浮かべたあの時の笑顔を私は死ぬまで忘れないだろう。


「ま、俺が……っ、んな、事……させねぇけど、な」


自分の事は早々に諦めていた母も、さすがに娘は売らないでくれと父に懇願したがそんなものに意味などなく、引き渡しの日まで私は地下室に閉じ込められていた。

諦めが肝心、だなんて、割り切れるほど大人じゃない私をそんな窮地から救ってくれたのが、他ならぬ彼だ。


「……アユ、」

「っ、」


好きなだけゼロ書けよ。

そう言って、ぺらりとした長方形の薄っぺらい紙を彼が父に渡してくれたお陰で、今の私がある。


お互い、親に恵まれなかったな。

そう言って笑って、私の頭をくしゃくしゃに撫で回す彼の手は今でも好きだ。

私を買ったはずなのに一度もそれを口にせず、それを理由に何かを強(し)いたりしなかった彼も私は好きだ。


「き……り、っあ、っん……やっ」

「っ、煽んな、よ」

「んっ、あっ、や、あっ、」


けれど、と。

彼に与えられる快楽の波に溺れながらも、頭の片隅で思うのはいつだって、これを愛と呼べたなら、という事。


「っアユ…………アユ、」

「……んっ、ん、」


ぴたりと密着した二つ身体。

耳元ですがるように呼ばれた自分の名前に応えるように、ちらりと視線を彼に向ければ、唇を塞がれる。

艶かしく口内を犯すその舌に奪われていく酸素。


「っ、はぁ、」

「…………アユ、」


唇が解放されて、は、とこぼれた短い吐息。

それに続いたのはまたしても私の名前で、その声は少しだけ震えているような気がした。


「……お前が、俺を好きじゃねぇのは知ってる」

「……」

「…………だから……愛してくれなんて、言わねぇ」

「……」 

「……ただ……側に居て欲しい」

「…………きり、や」

「……お前にだけは……捨て、られ、たくねぇ」


ポタ、と彼の元を離れ、私の頬に落ちてきたそれを、私は拒めない。


意地悪神様の試練A
 (……用事、キャンセルさせてごめんな)
 (…………ううん。いいの。大丈夫……だから)
 

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