▽ 意地悪神様の試練@
神様、ってやつはきっと、暇をもて余しすぎてるんだと思う。
だってそうじゃなきゃ、こんな事、起こるはずないもの。
「…………ア、ユ?」
「げ」
「っアユ!!」
「っちょ、」
こういう時に限ってどうして。
と、思う事が多々あるのは、おそらく暇すぎる神様がか弱き人間に試練を与えて楽しんでいるからだろう。
ユアとナナセの監修の元、練りに練ったナチュラルに嫌われよう大作戦決行の為、今まさに待ち合わせ場所へと向かっている途中だというのに。
「……あの、離れてくれない?」
「……アユ、マジ俺アユいなくて死ぬかと思って……ずっと……探してたんだぞ。何で連絡くれねぇんだよ……アユは俺に会えなくて寂しくねぇのか?」
「……あー、まぁ、基本一人が好きだし。ってかはな」
「ひっでぇ!!彼氏の俺には会いたいって思ってくれよ、頼むから」
どうしてまたそんなタイミングで、引っ越しの際に自然消滅を狙って一切の連絡を経った当時の彼氏にバッタリ出会(でくわ)してしまうのか。
名前を叫ばれて、抱き付かれて、逃げ場を失った私に突き刺さる無数の視線。
だがそれよりも、私の中では既に終わりを迎えていた関係が、ユアの言うように彼の中ではまだ進行中らしい、という事の方が私にとっては一大事だ。
「……あのさ、キリヤ」
「ん?何だ?」
「私、これからちょっと用事があって、あの、また連絡するから、」
彼氏、という言葉に嫌悪感を抱きながらも、敢えてそこに触れないのは、決して相手に気を遣ったわけではない。
単なる自己防衛。
「うん。アユは相変わらずさらっと嘘つくよな」
「……するよ、ちゃんと」
「連絡の件もだけど、用事っての」
「……用事ぐらい私にだっ」
「男に会うんだろ」
馬鹿みたいに騒がしくて、馬鹿みたいにリアクションが激しくて、それでいて馬鹿みたいに勘が鋭い。
というより、桁外れの洞察力に恵まれてしまったらしい彼に嘘を突き通せる人がそうそう居ないのだ。私自身、彼の言うように割りと嘘つきなのだがその嘘が通じた試しは今まで一度もない。残念ながら。
「…………用事なんだから、別に男も女もないでしょ」
それでも往生際の悪い私は、平然を装い、呆れたようにため息を吐き出す。
すると、骨が軋む手前くらいの力加減で絡み付いていた腕がするりとほどけて、彼との間に僅かな距離が生まれた。
「へぇ、」
「…………何、」
「珍しく、焦ってるなぁ、と思って」
途端、くつりと笑うキリヤ。
ブラフの通じない彼はどうやら何かを思い付いたらしく、にっ、と口角を僅かに上げた。
「なぁ、アユ」
「……何」
「俺も一緒に行っていい?邪魔しねぇから」
いいわけねぇだろ。
「……ついて来たって面白くないよ」
「そ?じゃあ待ってる。アユを見つけた報告もその間に済ま」
「誰に」
「んー、みんな?」
と、今にも喉から飛び出してしまいそうなそれをごくりと飲み込んだのは、彼がどういう人間かそれなりに知ってしまっているからだろう。
意地悪神様の試練@ (まぁとりあえず、お前の親父さんに、だな)
(……用事キャンセルするから報告はやめて)
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