▽ バカ兄貴ユアに呆れられた日
双子、といえど、私達に似ているところはほとんどない。
「お前、馬鹿か」
「……だって」
「だってじゃねぇよ。その面倒がる癖やめろ。こっちがメンドクサイ事になんだからよ」
「……何でもきいてやるって言ったじゃん」
「は?お前何言っ」
「ダブルデート」
「っ」
「したよね、私」
「……」
「それに比べたら私の頼みなんてかんた」
「っだあ!分かった分かった!聞きゃあいいんだろ、聞けば!」
「うん。よろしくね」
喜怒哀楽が割りとハッキリしていて、楽しい事は楽しい、辛い事は辛いと言えるユアに対し、私はクールだとか淡白だとかポーカーフェイスだとか周りから言われる。
そんな自覚はないけれど、言われるって事はそう思われているのだろう。
確かに、手のひらサイズのでかい蜘蛛が顔に張り付いた時も、ひったくりにあった時も、あらー、って思っただけであり得ないって言われたけど。
「ノゾムの嫌いなタイプかぁ……本人には聞けねぇし、あー!めんどくせぇ!」
「……誰。ノゾムって。私が頼んだのはシノハラ君の」
「シノハラ ノゾム」
「ん?シノハラ君?」
「せめて名前くらい覚えてやれよ。不憫過ぎだろあいつ」
それでも、そんな私にだって苦手なものはある。
「つうか、よくそんなんでデートの約束したな」
「だって、事あるごとに泣き出すから」
「お前泣かれるの苦手だもんな。特に子供に」
泣く人と子供だ。
子供に泣かれた日にゃ、逆にこっちが泣きたくなるくらいその二つは苦手。
泣かれてもどうすればいいのか分からないし、子供もどう接したらいいのか分からない。元々、愛想のいいタイプでもないから余計に、だ。
さっさと帰りたい一心で彼からの、デートして欲しい、という願いを素直に聞き入れはしたものの、ズルズルそれを引き伸ばされるとやはり鬱陶しい。
だからといって、ハッキリとお断り、つまり、フるという行為をしてしまうと泣かれるのは目に見えているので絶対にしたくない。
となると、私がすべき事はただ一つ。
「でもよ、んな回りくどい事しねぇで、泣かれてもちゃんと面と向かって断ってやんねぇと可哀想だぞあいつ。同じ男としてちょっと同情する」
「ならあんたが付き合ってあげれば」
「無理。俺は女しか抱けねぇ」
「キモい」
ナチュラルに嫌われる。
もう、それしかない。
「ま、そういうのはどうしようもねぇしな。次の金曜までに調べりゃいいんだな?」
「うん。来週の日曜がデートだから、土曜までに計画立てたいし」
「分かった。あいつの周りにそれとなく聞いてみるわ」
「ありがとう、ユア」
ユアの言葉を合図に、ココアの入ったマグカップを手にソファから立ち上がる。
よし、これで。
「なぁ、アユ」
「ん?」
「ノゾムの事は別としてよ、」
「うん」
「いい加減、ちゃんと別れてきたらどうだ」
「……」
「まだお前の事探してるらしいぞ、あいつ」
と、安堵の息をつく暇はどうやら与えては頂けないらしい。
「…………考えておくよ」
「……そうしろ」
ユアの言った、あいつ、のせいで、ココアの入ったマグカップは床に落ちてしまった。
バカ兄貴ユアに呆れられた日 (お前って本当、男運ねぇよな)
(あんたの妹って時点でかなりないね)
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