中篇 | ナノ

九章二節【壁】


見えない壁がそこにはある。
見えずとも明瞭なそれは僕を拒絶するように、或いは牽制するように、静かにそこに存在した。
冷たい光。温もりを感じさせぬ視線。そして、穏やかな眼差し。
相反するものが顕在する彼の瞳は、一瞬の暗闇を僕へと差し向けた。
"ここにはいってくるな"と自らのテリトリーを主張するその視線に僕の体は律儀に反応をする。
"わかりました"と同じく視線で一瞥した。
彼の瞳には不思議な逆らえぬ力があるように思える。
誰も彼の力には気付いていない。静かなる誘導と強制を含んだ穏やかな口振り、仕草、その全てにおいて。
この彼の力に一体誰に気付く余裕があるというのだろう。
僕でさえ気付く事は無かった、多分あの夜の出来事さえ無ければ。




君を想おう。
誰が想わずとも、この僕だけは。この心の中でだけは。
君を想おう。
誰の為でもなく、この僕自身の為に。この胸の内だけでも。
君を愛そう。
誰に決められた訳でもなく、ただ君だけの為に。




2013.04.22

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