中篇 | ナノ

九章一節【うばって】


その肩を掴んで、感情を感情のまま吐き出す。
「ぼくじゃなきゃ、いやなの…!」
汚濁した感情に自分自身で嫌気が差す。こんなにも自分は醜い思考の持ち主だったのだろうか――身体が、手が、心が、どれだけ汚れ、穢されても。この祈りだけは。
嫌なところはすべて、ハレルヤになすりつけていたのは。他の誰でもない僕自身だというのに。
「貴方が満足するなら、僕はどんな事でも耐えられる!」
幼い子供が泣いている。その姿はかつて崇信した少女ではなく、幼き頃の自分自身だった。
まるで自分の背中を追うような……遠い旅だった。
だって、本当の自分はまだ、十にも満たない幼子のまま。
奪いたくなかった。だけどみんなは奪っていく。
だから奪った。奪われたくなかったから。
でも彼には奪って欲しいと願う。
彼の為に全てを投げ打つ事は出来無いから。
だから守ってきたものを捧げた。
なのに彼はぼくじゃ満足してくれない。
「だからぼく以外の他の誰にも触れないで…!」


12.01.15

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