中篇 | ナノ

七章一節 【何も遺せなかった僕に】


※アレルヤ独白。



本当は、かなり追い詰められてるんじゃないかって思う。
僕もみんなも、ギリギリの現実に立っていた。
本当は、羨ましかったんじゃないかって、今から思う。
僕はただ後ろに立ってみんなを見てるだけでよかったのに。
本当は、本当は、本当は……
頭に鳴り響く危険音。
思っては駄目、考えては駄目、知っては駄目。
誰かが僕のドアをノックするたび、頑なに拒む自分がいた。
触れさせては駄目、入らせては駄目、なのに入れてしまうなんて悍ましい。
それでも触れたいと、想いたいと叫ぶ自分がいた。
ハレルヤじゃない自分、本当の自分、自分だけの自分……
いつしかノックは止んで、僕のドアから離れていってしまう。
ドアの隙間から見える背中は遠く小さく、それでも呼び止める勇気は僕には無かった。
振り向かないかな、と見詰めていてもそのまま何処か遠くへ行って、違うドアをノックしていたのだ。
そのドアの持ち主達は最初は拒みながらも、最期には皆受け入れていた。
僕のドアだけが開かずに心の隅に残っている。
他のドアには、小さいながらも温かい置き土産がぶら下がっていて、それらをドアの持ち主達は泣いて喜んでいたのに。

今更ドアを開いたって、そこには誰もいない。
マリーだけが優しく僕を包んでくれた。

「壊れていくよ」

「?、……何がだ?」

「ドア」

「アレルヤ、どうかしたのか」

刹那とティエリアが不安そうに僕を見詰める。
その姿が、ドアをノックしていた人物の姿に被った。

「本当は、僕も」

本当は、なに?



09/02/22


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