中篇 | ナノ

五章二節 【愛を知った豹】


彼の事を考えると時々無償に苦しくなったり、頭が痛くなったりして胸が騒いだ。
彼にもっとああして欲しい、こうして欲しいという欲求が急に思考へ出て来たかと思えば、それが脳内を蔓延りそれに違和感を感じたりもし始める。
彼は僕に愛してると言ったけれど、僕はそれに多少の違和感を感じながらも同じく愛してるという返事を返してそれを受け入れた。
もしあの時、違和感を感じた時に彼を突き放していたら、今のような罪悪感や悲壮感などは無かっただろう。

(ごめんね、僕は愛してたんじゃなくって、貴方に恋してたんだ)

恋を愛だと誤魔化して、愛を与えてくれた人に恋し、その肉体を捧げた。
愛に一生懸命だったのだ。
愛に恋をした。
愛を知らない僕を愛してくれた。
すくってくれた、なのに。
僕は彼を救えなかった。
自嘲気味に鏡に映った顔を撫でる。

(ああ、だからこそ。生きなければならないのか)

死ぬ覚悟などとうに出来ていたというのに、今更生きる覚悟など。
人の命を踏み台にして生きて死ぬ覚悟をしていたのに、矛盾が駆け巡る。

(生きたい、死にたい、往きたい!)

いま愛を知ったからこそ、貴方に帰してあげたい。
いま愛を知ったからこそ、生きて貴方に届けたい。
暗闇の中で、光を知った獣のように。
僕は走る。
はやる気持ちを押さえながら
死に急がないように、死んでしまわぬように。
色褪せた僕の世界を再び色付けてくれた人に向かった。
暗闇の中で、愛を知った豹のように。

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