中篇 | ナノ

四章一節 【君のそばで待っているよ】


※映画前提話(映画公開前の作品です)








空気というのは、こんなにも重苦しく、体に纏わりつくものだったろうか。
指を曲げるのも難しく苦しくて、腕を持ち上げる事すら億劫になった。
そっと、こちらに向けている背を撫でる。
振り向いてなど、くれなかった。
その背の向こうに、何が待ち構えているのだろう。
未知の領域、未知の空間、未知の生物。
未知なる戦いが目前に迫っているのに、"それ"は足元で青にきらめく地球を見下ろしている。
まるで愛しいものを見詰めるように、優しく微笑んで。
だから、その瞳を隠したくなったのだ。
透明な壁に両手を付いている"それ"を、後ろから目隠しする。
影に隠してしまえれば、どれだけ良かっただろう。
影は今、この場にひとつしか無い。
"それ"の影が、柔い青で縁取られている。
自分に気付いてくれるのを待っている。
こうして後ろから抱きしめても、振り返りも、見詰め返してもくれない。
見知らぬ二色の輝きがただ、地球に降り注ぐだけだった。

《――……》

呼び掛ける声も、名前も、今は無い。
目の前に佇む"それ"は、俺の知ったものでは無かったのだから。



prev / next
[ back ]

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -