中篇 | ナノ

三章三節 【終わりを告げた銃声】


if:もしもニールが生きて恨みを晴らして、世界を刷新したら。

ターミナルまで彼を送ったのは僕だった。
開いたばかりの新しい高軌道ステーションは、地上までの長い道のりで折れることなくまっすぐと宇宙まで延びている。
いつものジャケットではなく、コート姿の彼の後姿はまるで見たことも無い人だった。
茶色いツイードのコートがまるで重く彼にのしかかっていと感じてしまう。
早く、それを脱いでしまえばいいのに。
彼があのコートを脱いだら、彼はやっと元の彼に戻れるのだ。
それが酷く辛かった。
本当に彼は僕の知らない人になってしまう。
引き止めるほどの自信も無かった。
だから、その背を見送るしかなかったのだ。

「…んじゃ、行くな」
「ええ。…さようなら、ロックオン・ストラトス」
「…さようなら、アレルヤ・ハプティズム」

彼の心は迷いなく行く先の事を考えている。
僕と出会う前の日々へためらいもなく戻っていける。
挨拶を済まして、彼はターミナルの奥へと消えた。

僕はどうする当てもなく、結局はコロニーでマンションを借りて生活をしていた。
毎朝コーヒーを飲むはずなのに、どうしてかいつも二人分淹れてしまった。
一緒に飲む相手など、もう何処にも居ないのに。 そうしていつも、二人分のコーヒーで咽喉を焼いて家を出た。
窓の外に見える闇に浮かぶ太陽に、これで良かったのだと何度も言い聞かせたのだ。
これで良かったのだと、何度も自分に言い聞かせたのだ。




10/08/09 UP

⇒2013年に刊行した「GetBack MySelf」として続編があります

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