中篇 | ナノ

三章一節 【眠り姫】



《瞼を閉じてご覧、そう、見えるだろう?夜空にきらめく星達が》
《流れ星も、天の川も、すべてすべて見えるだろう?》
《だから怖くないのよ。お眠りなさい》

幼い頃両親に言われた言葉を思い出しながら、目を瞑った後、静かに胸の上で両手を組む。
まるで死んだ人のように呼吸も小さくして、ただ瞼の裏を見ていた。
揺らめく光を視線で追っても、視界の端で薄くなって消える。
昔はそれを何度も繰り返すうちに、眠りについていた。

「もう寝たの?」
「うん寝た」
「嘘、起きてるじゃないか」
「もう寝るんだよ…」

ベッドの横に座るお前に聞かれて子供のように、他愛の無い話が始まる。
シーツの隙間から風が入り込んで、ぴとりと肌と肌が触れた。
寝付かない子供をあやす様に、髪を掻き上げられる。
その手が額を過ぎたのと同時に落ちる瞼を抉じ開けた。

「…眠いの?」
「ん……」

語尾が甘ったるく落ちる。
考えているよりどうやら眠いらしくて、声帯があまり震えない。
視界の端に微かに、流れ星が見えたような気がした。
うつろうつろと開閉を繰り返す瞼をなんとか開こうと努力する。
きらきらひかるなにかが、視界を右折左折する。
ああ、綺麗だなあ。
僅かに髪の隙間から覗く二色の星がこちらを向いて輝きが増す。
ずっと見ていたい、そう思う程眠気が脳を襲う。

「ねむいから、きょうは……」

今日はなんだろう。
明日はなんだろう。
意識が落ちていく。

「そんなことで、・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

言葉が聞き取れずに、眠りに耽る。



「そんなことで、キスできる?」

言う前に貴方は眠ってしまった。
おやすみなさいのキスをそっと額に贈る。
あどけないその寝顔は、疲れきった表情をしていた。

「…おやすみなさい、こいしいひと」

もし明日があれば、また輝く笑顔を見せておくれ。
僕にその笑顔を見せておくれ。
明日があれば、必ず……

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