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二章二節 【パイシーズたちの憂鬱】


夜は最後の満員電車に乗り込む前に、二人は強い雨に打たれてしまった。
ゲリラ豪雨で人が逃げるスクランブル交差点を駆け抜けて、長い足で階段を三段飛ばしという危険な方法で掛け降りて来る男が二人もいれば、振り向かない者はいないだろう。
一人は淡い栗色の巻き毛の男、もう一人は黒髪で男にしては襟足の長い男だった。
いずれも身長が180もある大柄な男達が地下鉄の改札を通り抜けて、本日最後の電車に乗り込む。
息も絶え絶えで、しかも雨に濡れた二人はドア付近で押し潰されてしまい、身動きが出来ない。
しかもこれが後30分も続くのだから、二人は今日がとても不運な日なのだと自らを責めて嘆いた。
今日の星占いで最下位だったとかそんな事なのだが、恋人との久し振りの逢瀬でこんな事になってしまうなんて…とお互いがお互いに気付かれぬよう溜め息を吐く。
もしも今日、自分が魚座じゃなかったら
もうちょっとマシな再会になったのでは無いか?
と同じ事を二人は考えていた。
トレインのターミナルで出会ってから、今日は本当についていない。
先に送った筈の荷物がよそに勝手に持って行かれたりだとか、レンタルした車が発進した途端タイヤがパンクしたとか、危うく自転車に轢かれそうになったとか(しかも四人乗りのやつだ)。
普段星座占いなんて信じて無いけれど、たまたま見た日に限って最下位なんてツイてない。
その上占いが微妙に当たってるんだから、嫌だ嫌だ。
勿論ランチにはラッキーアイテムのシーフードカレーを食べた。
なのに、なんで!
梅雨入りもして熱気と湿度を持つ電車内は、雨に打たれた二人にじっとりと汗をかかせて長い襟足が首に纏わりついてくる。
日付は十二時を回ったのにこの満員電車はノンストップで終着駅に向かって行く。
スーツ姿の男性が多い車内にはラフな格好で背も高く風貌も整った男が二人仲睦まじく寄り添っていれば、嫌でも目立だろう。
黒髪の男が扉の右端に背中をくっつけて、その横に向かい合う様にして巻き毛の男が左腕をついていた。
そして耳打ちするように時折会話をして、微笑み合う……端から見れば恋人同士のような二人なのだが、満員の車内では人々はそんな事など気にも止めなかった。
睦言を交わす二人は時折雨に濡れた髪を掻き上げて、ただ電車の揺れに合わせて瞳を瞑った。
「あ、」
「?なぁに」
「日付、変わった」
左腕に付けている腕時計を見て、巻き毛の男が呟く。
「……そう」
巻き毛の男の言葉に黒髪の男は内心ほっと息を吐いて、これであの疎ましい星占いの一日とはおさらばだと、二人は心の内で考えた。
「突然なんだけどさ。…お前って星座なに?」
「?うお座です、けど」
「……っ、く、くく、はははっ」
「なっなんですか急に、尋ねておいてっ」
「いや、悪い…っはぁ、あはは、まさか同じだとは思わなかった」

「そうか、うお座かー。…今日星占い最下位だったの、知ってるか?」
「え、ええ」
「なーんだ、そっか」
少し楽しげに、巻き毛の男はかぷかぷと笑う。
星座占いなんて血液型占い並みに信用が無いものだと、今思い出した。
「どうしたの、今日は…ん、」
言葉を閉ざすように、巻き毛の男は口付ける。
「今日はまだ5分しかたってないぜ」
二人が雨に打たれてホテルに辿り着くまで、残り10分と少し。




10/07/18 UP


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