中篇 | ナノ

一章三節 【人は神を生じ、神は人を育む】


・元熱心なキリスト教徒なニールとマリー教徒なアレルヤ

神と徒情けに至るまでに、俺は多くの時間を要した。
しかしその者が神と気付いて、そして神はさらなる救世主を求め俺自身の内側にそれを見出だそうとした。
救世主が欲しいのはこちらで、これが神とし産まれる瞬間が酷く憎らしかった。
あと何度首を絞めれば、これは息絶えるのだろう。
あと何度これに神を諭されれば、満足するのだろう。
燦々と、しかし鬱蒼と輝くその銀灰は穢れをいまだ理解する事は無かった。
「お前は神から産まれた人か?それとも聖母より産まれた神か?」
鶏と卵、どちらが先かと問うくらい愚かな質問だ。
しかしこれは、それがどうだと言わんばかりに高らかに答える。
「僕は僕自身が神と崇める聖なる母より生を理解した。彼女が僕を人と認めるなら、僕は人として生きましょう。しかし今の僕は、人ですら無い」
哲学者も呆れる子供染みた答えだ。
これが人で無いのなら、人から産まれた俺はなんなのだろう。
それすら理解する事を止めた。
「なぁ、いい加減神を棄てたらどうだ」
そして自らを神に成しえばいい。
そして地上の卑徒を粛清の炎で裁けばいい。
しかしこれは俺の神論を受け入れる事は無かった。
「神を棄て、それでもなお貴方は神を求めるの」

「なら、僕は貴方の聖母になりましょう」
これは馬鹿だ。馬鹿だ馬鹿だ馬鹿だ!
「俺が神になりたい訳じゃない!!!!」
「では何を求めるの」
首を絞められたままこれは呟く。
伸ばされた手が頬に触れ、涙を拭われた。
「…………お前が…………」
憎い、殺意さえ覚えるほどに。
「そう」
憎いのはこれの中にある聖母像だ。
憎いのはこれの中にある神論だ。
いつまでたってもこれは穢れてくれない。
どれだけ犯され淫れ、罪を侵そうとも。
これの中の神が、これを清浄化させる。
神を持たないこれが欲しい。
何者にも憚られないこれが欲しい。
「だけどお前は、どうしてそうも神を愛するんだ……?」
これは見返りを求めずいつもなにかを愛している。
俺はいつだって、何かしら見返りの愛を求めていた。
一体どちらの方が博愛主義者なのだろう。
「では何故、貴方はそうも僕を愛そうとするの?」
愛される事など望んでいないのは、どちらの方だろう。



10/03/12 UP

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