中篇 | ナノ

一章二節 【その手をとって】


暗闇に浮かぶ影と、君は目を合わせた事があるかい?
問い掛ける前に、僕はその影と瞳を合わせてしまった。
青白い光の粒子がまるでホログラムのように影を映し出し、そこで待っていたかの様にそれは僕の目の前に現われた。
罠か、真実か。
どちらにせよ、目の前に浮かぶ影は虚構でしか無い。
合わされた瞳は逸らされる事無く、目の前の影は片目で微笑む。
その笑顔は記憶の片隅に残るものと同じで、無意識に腕を伸ばした。
届く筈も無く、距離感すらあやふやに左手は空を裂いた。
ぴくり、指が痺れるのが解る。
バイザー越しでもよく分かる、青白く光る毒に僕は眩暈さえ起こした。
目の前の虚像は今の僕には毒にも匹敵する。
触れてしまえば、一瞬で死に至る猛毒だ。
しかしそれでもと再度僕は手を差し出した。
今度は触れるのを待つように、じっとそこで待った。
まるで毒桑園の様だ。
悪魔と盃を交わす一歩手前と喩えようか、姫に咎の無い薔薇の花束を渡す騎士のような。
微笑むだけの影が、一瞬驚いたような顔をしてそして泣きそうにまた微笑んだ。
白い手が差し延べられる。
何も纏わぬ白い指が、綺麗に揃えられ僕の手をとろうとした。
そこで光は止んだ。
影は消え去り、そこで僕は目覚めた。

10/03/11 UP


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