中篇 | ナノ

一章一節 【声を聞かせて】


無言が突き刺さる夜が、眠りを妨げる。
生暖かい素肌が嫌になった。生暖かいシーツが、嫌になった。
固いベッドマットは相変わらず体に馴染まず、煩わしい夢ばかり見せる。
中途半端な浮游感に三半規管は混乱をおこし、中途半端な吐き気と頭痛に見舞われた。
忘れるように君の頬をなぞる。
伏せられた瞼は開かない。
君の濡れた緑髪が風に揺れる。
同じ色の睫に縁取られた瞼は、まだ開かない。
起きてくれと、切に願った。
今ならこの瞳で、真っ直ぐに君を見る事が出来る。
今ならその瞳を、真っ直ぐに見詰める事が出来る。
起きてくれ、起きてくれ、起きてその両の眼で捉えてくれ。
その優しい声で、名前を呼んで。
ついに君が両の眼が開かずに夜は明けようとしていた。
足元にある太陽は、午前2時を差す。
ついにこの両の眼は開く事は無く、そのまま閉じようとし始めた。
それを止める勇気は無かった。
午前8時に終わりを告げる鐘の音を聞くことは叶わずに、そのまま閉じて行くのを感じながら浮游感に身を任せるのだ。
そのまま閉じて行くのを感じながら、爆発にこの身を巻き込んだのだ。
そのまま、そのまま、そのまま……。


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